稲垣和俊戯曲集

戯曲集をここに。

稲垣和俊戯曲集

こんばんわ。

稲垣と申します。

 

劇作家です。

 

稲垣和俊戯曲集なるものをこのブログにて育てていこうと思います。

稲垣和俊戯曲集は変化し続ける戯曲集である。

 

 

どういうことか。

稲垣和俊が書いた戯曲を惜しげもなく載せていく。そして、その戯曲集はどんどん膨れあがっていくのである。

 

なんで。

意見を聞きたい。感想を聞きたい。ブラッシュアップを図りたい。

だから是非、読んでくださった方は、コメント欄にコメントを。

書ききった戯曲もいつでも考え直すチャンスがあり、終わりを決めすぎない。

 

 

実は。

上演したいって方大歓迎。連絡下さい。本当によろしくお願いします。

romantist721@gmail.com

 

  

お隣さん、愛おくれ。(書きかけ、途中まで)

  

※なかなか書き終わんないので、書きかけですが上げます。続きかけたらちょこちょこ更新します。こうすべき、こうしたいだとか、途中までだけど感想とかありましたら教えてくださいませ。

 

「お隣さん、愛おくれ」

 

  冬。雪が降っている。夜の手前。

  

  部屋。

  カーペット、机、あればソファ、あればテレビ(なければ音響のみ)

  ベランダへのガラス戸、

  台所、舞台上でも舞台袖でも良い、

  ベランダと反対方向に玄関。

  机の上には、お菓子や服や、紙なんかが大量に、

  机の下にも、そこに乗りきれなかったとでもいうかのごとく、

  ソファがあれば、ソファの上にも、ちらほらと、

 

  女、男、玄関から、

 

女  入って、
男  すみません、おじゃまします、
女  あ、暖房、つけっぱだ、ああ、つけっぱで出ちゃった、あ、上着
男  ああ、いえ、すみません、
女  座って、
男  あ、どうも、
女  散らかってるけど、
男  いえいえ、そんな、
女  え、と、お茶とハーブティどっちがいい?
男  いえ、もうそんな、大丈夫ですから、
女  だって、飲み物ぐらい出させてちょうだいな、お茶とハーブティしかないけど、いや、水道水でよければ水という選択肢もあるけど、
男  お茶ってお茶ですか。
女  お茶はお茶ね。
男  ハーブティって、
女  ああ、そっかそっか、ハーブティもお茶ね、だから、お茶は、その、緑茶、ハーブティと緑茶と、水道水、水道水飲む派?
男  ええ、飲みますね、水道水、朝起きたら、
女  ああ、飲む派、じゃあ、いや、じゃあ、って、水道水はないわね、お客さんに、水道水はないわ、お茶とハーブティどっちがいい?あ、お茶は緑茶ね。
男  あ、じゃあ、
女  あっ、そうだそうだ、あれだ、あれもあった、プロテインプロテインもあったんだ、いっぱい買ったの、プロテイン、細マッチョになれるって通販で売ってて、結局全然飲んでないんだけど、プロテイン、いいじゃない、プロテインにしなよ、水で溶かすやつ、
男  ああ、ええ、じゃあ、プロテインで、
女  ちょっと待っててね、最高のプロテインつくったげる。

 

  女、台所へ、

 

女  テレビね、
男  はい、
女  見たかったらつけてね、リモコンあるから、その、床、床のどこかにあるから、床 っていうか、地面、地面じゃないか、フローリング、そう、フローリング、フローリング?カーペットのどっか、多分、机の下あたりのカーペットのどっか、
男  ああ、机の下、
女  えっ、ない、リモコンない、
女  いつも地面に置くの、地面ていうか、フローリング、フローリングていうか、カーペットのどっか、机の上に置いてたら、分からなくなっちゃうから、あれ、ないね、
男  机の上、
女  机の上には置かないの、私、絶対、机の上には置かないの、主義なの、机の上にリモコン置かない主義なの、ほら、だって、机の上って、どんどん物たまっていっちゃうじゃない、だからリモコンすぐどっかいっちゃうのね、リモコンなくなると、ほら、ご飯食べながらテレビでもゆっくり見ようかって時にね、リモコンないと、あれじゃない、ものすごく、胸が、グワングワンするでしょ、もう、すごくグワングワンするから、リモコンなくなると、あああ、てなるから、なくならないようにリモコンは地面に置くようにしたの、私、地面ていうか、フロ、カーペットのどっかに。
男  でもパッと見た限り、地面の上にはなさそうですけど、
女  机の上にはないの、絶対に、机の上にはないから、
男  あっ、いや、そうですか、
女  えっ、テレビ、ああ、もう、いいかな、テレビ、見たい、そんなに見たい感じ?
男  いやいや、そんなには見たくないですよ、はい、大丈夫ですよ、
女  そう。じゃ、ちょっと諦めよう、こういうのって諦めたら出てくるのよね。
男  そうなんですよね。

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  鍵は諦めきれないもんねえ、
男  多分会社で着替えた時落としたんじゃないかと思ってるんですけど、

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  ごめんなさいね。
男  あっ。何が。
女  ハーブティ。
男  ハーブティ、ハーブティ、なんですっけ。
女  ほら、だって私、おかしいの、うふふ、笑っちゃう、私、ハーブティてティなのに、お茶なのに、お茶とハーブティどっちがいいって、ふふふ。
男  ああ、いや、それは、なんか、ね、そういうのは、ねえ、
女  私、ハーブティてお茶って感じじゃないのね、お茶じゃなくて、ティなのね、それで私にとってお茶って言うのは冬は緑茶で夏は麦茶なの、なんかお茶って言うのは、もう、そういうもんだって生まれ育っているのね、ウーロン茶はウーロン茶て言うし、そば茶はそば茶て言うし、さんぴん茶さんぴん茶て言うし、さんぴん茶なんて買ったことあったっけ、とにかくお茶って言うと緑茶か麦茶なのね、それを、私、何にも考えずにお茶とハーブティて、うふふ、おかしい。
男  ええ、でも分からなくはないですよ、僕の実家はウーロン茶だったんで、お茶って言うとウーロン茶かなあ、みたいな、思いますよ。
女  え、ウーロン茶、飲みたかったですか?
男  いや、ウーロン茶は特に飲みたいってわけではなかったんですけど、実家がウーロン茶だったんで。
女  え、実家がウーロン茶。
男  はい、え、なんです。
女  へえ、実家はウーロン茶だったんですか。
男  はあ。
女  あっ、実家が、ウーロン茶、ということね。
男  えっ、ええ、ええ、はあ。

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  変ね。
男  え、あ、変ですか。
女  変よ。
男  え、何がですか?
女  あなたのこと何も知らないのにあなたのためにプロテインを振っている。
男  それは、変ですね。
女  何をしてらっしゃる方なの?
男  何をと言うと仕事でしょうか、
女  そうね、仕事をしてるなら。
男  なんと言いますか、金属に色を印刷する仕事をしてるんですが、企業用の機械とかに、触るな危険とか、そういう注意書きみたいなのが多いですかね、黄色とか黒とか赤を一色一色塗っては焼いてって、まあそんな仕事ですね、
女  なんだかよくわからない仕事ね、
男  まあ、簡単に言うと金属に文字とかマークとか印刷する仕事ですね、はい。
女  へえ、そんな仕事もあるんですね、
男  まだでも働き始めてあれなんですが、半年ぐらいなんでペーペーなんですが、
女  引っ越してきたのもそれぐらい?
男  ええ、そうですね、就職決まってからなので。
女  じゃあ、結婚するんだ、
男  ああ、いや、そうですね、そうしようと思って就職したんですけどね、ああ、はい、ええ、どうでしょう。
女  結婚しないの?
男  いや、するんですけどね、ええ、そうしようと思って就職したんですから、ええ、そうなんですけどね、うーん、
女  ん、どういうこと?
男  いや、だから、結構いいとこ、いや、 プラプラしてた割には結構いいとこ就職できたんですよ、ボーナスいっぱい出るし、まだもらってないけど、いっぱい出るって噂だし、はい、はい、だから、まあ、そうなるよなあ、ていうか、え、もう、いいんじゃないですかね、
女  え、あ、あ、忘れてた。
男  忘れますか、
女  なんか、もう、ほら、そういう手に、いや、腕になってたわ、そういう、腕、プロテインを振る腕に、この腕はそういうもんだって、ほら、プロテイン振るのがスタンダードなんだって状態、プロテイン振るのが一番しっくりくる状態、みたいな、分かる?
男  あまり分かんないですね。
女  うん、まあ、そうね、え、どうしよう、お客さんにプロテインを出すの初だから、人生初だから、その、いつもは私、この容器でそのまま飲むんだけど、こういうのは、どうなんだろ、違うちゃんとしたコップに入れたほうがいいかな、
男  いいですよ、そのままで、
女  そう、いいかな、じゃあ、はい、どうぞ、
男  ええ、はい、どうも。
女  ごめん、やっぱり気になる、
男  え、そうですか、
女  コップで出させて、
男  いや、いいですよ、このままで、
女  ダメなの、私、気になっちゃうから、コップで、ね、うん。
男  はあ。
女  あれ、あ、もう、あああ、
男  え、どうしました、
女  見て、これ、最悪、ほら、ほらほらほらほら、
男  ええと、コップ、
女  洗わないの、コップ、全然洗わないの、ね、思わない、ね、水とかお茶とかジュースとかもう、いろいろ飲むんだけど、洗わないで、置いてくの、私が洗うと思ってるの、ね、思わない、一緒に住んでる人に影響がかからないように放置してるならいいんだけど、影響かけてくるの、私からしたらね、雑菌て言うの、ちょっとぐらい雑菌なんか、むしろ水とかお茶入れたコップなら、さらっと水ですすいでもう一回使えばいいのに、雑菌とかもね、免疫的に、あんまり洗いすぎるのも良くないって言うか、ね、でも、ダメなのね、一回一回綺麗なのじゃないと気が済まないの、そのくせ、洗わないの、もう、
男  えっ、すみません、誰かと一緒に住んでるんですか?
女  えっ、そうよ、えっ、知らなかった?それでね、逆にこっちが皿洗わなかったりすると、なんで洗ってないんだって、プンスカプンスカ、もう、本当に、ね、人にあーだこーだ言う前に自分がきちんとしなよって、ね、思わない?
男  えっ、旦那さんとかですか?
女  ん、いや、旦那さんとかではないね、一緒に住んでる子、もう、本当に、でも大丈夫、こういう時ね、洗わないの、向こうが洗うまで、一切洗い物しないの、そしたら、向こうがいつの間にか洗ってるてわけ、それでも洗わない時は、もう、言うしかない、ストレートにズバッと言うしかない、ね、だから、絶対に洗わない、私、絶対に洗わないから、あなたも二人暮らしならそういうのあるでしょ、
男  そうですね、でも僕は怒られる方ですかね、
女  ああ、あなた、そっち側、まあでも、男の人って大抵そうかもね、昔だったら洗い物なんて女の仕事だって考えだったんだろうけど、今は、女も働いてるものね、大抵、洗い物なんてお前の仕事だなんて、自分一人の稼ぎでやっていけないのに言えないわね、大抵、

 

  女、いつの間にやらプロテインをシャカシャカしている。

 

でも大抵備わってないから、その、洗い物をしようとする機能が、男性には、大抵の話よ、みんながみんなってわけじゃなくてよ、その、機能が、洗い物をしようって本能が、ね、備わってない人が多いから、怒られるのは男性の方が多いのよね、きっと、そりゃ、女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしくって育てられてきたんだから、大抵は、男の子らしく外で遊びなさいとは言っても、男の子らしく洗い物をしなさいとは言わないもの、育まれてないのよ、洗い物をする機能が、だから、まあ、そうかもね、でも時たま、女性の方でもその機能が全然備わってない人がいるわけ、それはあの子、同居人、で、なんだっけ、あれ、また振っちゃってた、そう、これ、これをコップに入れようとして、でもコップが全然なくて、まあ、洗えばいいんだけどね、嫌じゃない、負けたみたいで、
男  いや、いいですよ、本当に、その容器のままで、
女  待って待って、あるっちゃあるの、ええと、どこだったかな、あっ、これだこれだ、ちょっと小さいけど。

 

  女、おちょこを持ってくる。
  プロテインをおちょこに注ぐ。

 

男  なんて言うか、ウケますね、おちょこでプロテインは。
女  まあ、ちょっと変わってるけど、風情があっていいでしょ、風情って言うの、こういうの。
男  あ、おいしいです、プロテイン
女  あ、どうぞどうぞ、
男  あ、どうも。
女  変ね、
男  いや、でも、おいしいですよ、プロテイン
女 そうじゃなくてね、なんか、こうゆうの、初めて、なんか、こうゆう、親切、なのかな、なんだか、心がすわっとするわ。
男  ああ、いや、ほんとにありがとうございます、寒かったんで助かりました、
女  あ、寒かった、ごめん寒かった、
男  あ、外がですよ、外が寒かったってだけで、今は寒くないですよ、
女  でも寒かったんなら、やっぱり、熱いお茶の方が良かったよね、あ、お茶って緑茶ね、
男  いや、全然、プロテインで全然あったまりましたんで、
女  プロテインであったまるなんてことないでしょ、
男  いや、気持ち的に、親切な心的に、
女  やっぱり沸かすわ、
男  大丈夫ですよ、プロテインあるんで、
女  いや、なんかダメなの、私がダメなの沸かさせて、

 

  ピンポーン。

 

女  えっ。あっ、えっ、どうしよう、

 

  ピンポーン。

 

女  ごめん。
男  えっ、なんですか、
女  しっ、ちょっとごめん、ちょっとここにいて、

 

  男、ベランダに連れて行かれる。

 

男  えっ、なんで、

 

  ピンポーン。

 

女  はあい、ちょっと待ってね、ちょっと待ってね、

 

  女、玄関へ、靴を靴箱かなんかに隠し、ドアを開ける、

 

女2  遅くない、寝てたの、
女  なんだ関ちゃんか。
女2(以下関ちゃん)  なんだとは何よ。
女  あの人かと思っちゃったじゃない、インターホンなんて鳴らすから。
関ちゃん  そう、もう、最悪、最悪なの、鍵失くしちゃったの、もう最悪、
女  え、関ちゃんも鍵無くしたの、
関ちゃん  なにこれ、プロテイン、おちょこで飲んでんの。
女  あ、中田山さーん、
関ちゃん  ん、

 

  男、(以下中田山)出てきて、

 

関ちゃん  誰?
女  中田山さん、お隣さんの。
中田山  どうも。
関ちゃん  なんで。
中田山  あっ、
女  中田山さんも鍵を失くしちゃったの、外で寒そうに待ってたから、家で待てばって、
中田山  あっ、はい、おじゃましてます。
関ちゃん  鍵失くしちゃったの、
中田山  はあ、そうなんです、
関ちゃん  私と同じじゃん、鍵失くしたピーポーじゃん、
中田山  あっ、は、そうですね、
関ちゃん  いいじゃんいいじゃん、奇遇じゃん奇遇じゃん、まあまあまあ、いっぱい飲みましょうや、
中田山  あっ、いや、僕はプロテインがあるので、
関ちゃん  いやあ、アタシてっきり、依子さんの男かと思っちゃった、
女(以下依子)  何言うの、そんなわけないじゃない、
関ちゃん  だって、依子さんってさあ、あら、コップない、まあいいか、缶のままで、はい、
中田山  あっ、いや、僕は、
関ちゃん  いいじゃんいいじゃん、飲みな飲みなって、
中田山  あっ、ええ、どうも、
関ちゃん  じゃ、乾杯、
中田山  乾杯。
関ちゃん  はー疲れた、あ、依子さんも飲む?
依子  いや、私は、お茶飲むから、(お湯を沸かす)
関ちゃん  え、でも、コップないよ、洗わないと、

 

  間。

 

関ちゃん  あっ、だからおちょこで飲んでたのか、プロテイン、ええと、あれ、リモコンないね、
依子  そうそう、さっきもね、探してたの、
関ちゃん  あっ、あった、(机の上のどこかから見つける)
中田山  あっ、

 

  その時やっているテレビ番組が流れる。

 

依子  机の上に、あったのね、

 

  テレビ番組のチャンネルが変えられていく、

 

関ちゃん  あんまなんもやってないね、中田山さんは、何やってる人なの、
中田山  えっと、
依子  金属を印刷する仕事ですって、そんな仕事あるのね、
関ちゃん  どういうこと、金属を印刷、
中田山  あっ、いや、
関ちゃん  何、紙に、こう、金属がボコって、なるみたいなこと、
中田山  金属にです、金属に、金属に色を塗って、焼いて、こう、定着させる、みたいなことです、
関ちゃん  職人さんじゃん、
中田山  はあ、まだペーペーペーですが、
関ちゃん  依子さん、何、金属を印刷て、
依子  え、私そんなこと言った?
関ちゃん  言ったよ、言ったよ、ねえ、
中田山  ああ、どうでしょうか、
関ちゃん  えっ、言った言った、絶対言ったよ、
依子  言った言った、言ったでいいよ、
関ちゃん  えー、言ってない感じになってんじゃん、全体的になんか、言ってないのに私が聞き間違えた感じになってんじゃん、じゃんじゃんじゃん、
依子  どうでもいいでしょうにそんなこと、
関ちゃん  確かに。確かにそんなことはどうでもいいね。

 

  テレビ番組のチャンネル、変えられていく。

 

関ちゃん  あー、お腹空いた。なんもやってないな、
依子  やってないなら消せば。
関ちゃん  だから言ってんじゃん、ついてるだけで安心するの、なんも見るものなくても流れていると安心するの、ああ、家に帰ってきたって感じがするの、テレビってそんなもんでしょ、ねえ、
中田山  ああ、まあそうでしょうかね、
関ちゃん  えっ、中田山さん、結局どうするの、鍵なかったら帰れないよね、
依子  彼女さんが帰ってくるんですって、
関ちゃん  あっ、彼女、一緒に住んでるんだ、
中田山  ああ、はい、いつもこの時間帯には帰ってるので、もう、あのう、大丈夫です、外で待ちますんで、
依子  ダメダメ、雪降ってるんだから寒いじゃない、
関ちゃん  そうだよそうだよ、遠慮しないで、凍え死んじゃうよ中田山さん、中田山さんて言いにくいね、下の名前は。
中田山  俊彦です。
関ちゃん  俊彦、中田山俊彦、なんだか珍しいのか普遍的なのか判断しづらい名前ね。
依子  どうでもいいじゃない、そんなこと。
関ちゃん  俊彦、中田山俊彦、なーかーたやまっ、としひこ、
中田山  えっ、なんですか?
関ちゃん  なかーたやまー、とーしーひこっ、
中田山  えっ、なんですかこれは、
依子  やめなさい、困惑してるじゃない。
関ちゃん  なかなかなかー、たやま、としとしとしーひーこーひーこー、
中田山  えっ、怖い、すみません、怖い、
依子  やめなさい、怖がってるじゃない、
関ちゃん  ごめん怖かった?
中田山  えっ、えっ、なんなんですか、
関ちゃん  名前遊びだよ名前遊び、昔やらなかった?
中田山  やらなかった、そんな遊び知らない。
関ちゃん  え、知らない、名前遊び、今流行ってるの、マイブーム、
依子  テレビ見ないなら消せば、
関ちゃん  りこりこりこ、りこりこりこよー、りこよーよー、よーよーりりりーかわらぐちー、かわらかわらかわら、かわーらりー、

 

  依子、テレビを消す。

 

関ちゃん  あっ、

 

  依子、リモコンを窓の外に投げる。

 

関ちゃん  あっ、
中田山  ええっ、
関ちゃん  何してるの、
依子  テレビなんていらないわ、テレビなんて見ないもの、朝のニュースしか、それか晩御飯の時にたまに見るくらいだもの、ね、テレビなんていらないでしょ、朝、仕事に行く前に天気予報と時間を見ているだけだもの、テレビなんていらないわ、これで、リモコンをいちいち探さなくてよくなったわ、本体も粗大ゴミに出しましょう。
関ちゃん  何言ってるの。
依子  思ったことそのまま言ってるだけよ。
関ちゃん  お湯、沸いてるよ。あっ、コップないのか、
依子  洗ってよ。コップ、洗ってよ。
関ちゃん  リモコン探してきてよ、
依子  コップ、洗ってよ、
関ちゃん  分かった、リモコン探してきてよ。
依子  ごめんなさい。

 

  依子、はけようとするところへ、

 

関ちゃん  依子さん、ご飯は?
依子  まだ作ってないの、
関ちゃん  作ってよ、お腹空いた、早く作ってよ、
依子  リモコン探さないと、
関ちゃん  一瞬で探してきて、一瞬でリモコン探してきて、一瞬でご飯作って。
依子  コップ、洗ってね。
関ちゃん  はいはいはいはい、洗いますよ洗いますよ。

 

  依子、はける。

 

関ちゃん  としひこ、なかたやま、にゃかたやまとしひこ、にゃきゃたやま、ちょしひこ、きょひひこ、きょひこやまなかたやま、なかたまやひこちょし、ひこたまやちょしふぃこ。
中田山  コップ洗わないんですか、
関ちゃん  ちょししこ、しこたやまやまひこ、やまひこやまやまひこ、
中田山  うわー、会話にならない。
関ちゃん  洗ったほうがいいかなやま、洗いたくない気持ちもあるひこ。
中田山  洗ったほうがいいでしょ、怒ってたじゃないですか、すごく、そもそもコップ洗わないあなたが悪いんでしょう。
関ちゃん  あなたって誰ひこ。
中田山  あなたはあなたですよ。
関ちゃん  名前で呼んでやま、あなたじゃあ分からないひこ。
中田山  ええと、関さん、
関ちゃん  関さんとか、関さんとかじゃないんだけど、関ちゃんなんだけど、関さんて何、関ちゃんなんだけど、
中田山  関ちゃん。
関ちゃん  何。
中田山  あ、なんだっけ。
関ちゃん  コップのことだよね、
中田山  関ちゃんがコップを洗わないから、依子さんが怒っているんでしょう。
関ちゃん  依子さんはね、最近いつもこうなのね、ちょっとしたことですぐ怒るのね。
中田山  あなたがコップ洗わないからでしょう、いや、関ちゃんが、
関ちゃん  さて中田山俊彦に問題です、私は何故コップを洗わないんでしょうか。
中田山  洗いたくないからでしょう。
関ちゃん  ブッブー、私が彼女を養っているからです、私が彼女に食わしてやってるからです。コップぐらい洗えやって話なのです。
中田山  あなたたち二人はなんですか、どういった関係なんですか、
関ちゃん  難しい質問です、恋人以上友達未満といったところでしょうか、
中田山  付き合ってるというわけですか、
関ちゃん  付き合ってるとかではありません、一緒に住んでるだけです、ただ、依子さんが怒れば怒るほど、私が興奮しているというのは事実です。
中田山  どういうこと、
関ちゃん  中田山俊彦、依子さんが帰ってきて、私とあなた中田山俊彦がキスしていたらとても怒るだろうね、キスをしようか、中田山俊彦、
中田山  え、いや、それは、えええと、
関ちゃん  ジョークジョーク、本気にしないで、中田山俊彦。
中田山  ちょっと、なんなんですか。からかわないでくださいよ。
関ちゃん  からかうとは何。私が今の言葉をからかいじゃなく本気で言っていたとして、中田山俊彦が困った様子を見せた結果、ジョークジョークと冗談にしてやったとしてもこれはからかいでありますか。
中田山  ええ、いや、それは、からかいではありませんか。すみません。
関ちゃん  分かればいいひこ。
中田山  えっ、本気で言ってたんですか。
関ちゃん  私はいつだって本気さ。
中田山  えっ、いや、それは、ですね。
関ちゃん  ジョークジョーク、本気にしないで、中田山俊彦。
中田山  もう、からかわないでくださいよ。
関ちゃん  からかわないでという中田山俊彦の言葉にはからかいであって欲しくない気持ちとと、からかいであってよかったという安堵が渦巻くのであった。
中田山  ちょっと、僕を怒らせようとしてます?
関ちゃん  何をするの。

 

  中田山、台所に行って、

 

中田山  僕は怒りませんよ。自分を怒らせないための制御パーツをぎんぎんに改造して生きてきたんですからね。
関ちゃん  洗わなくていいのよ、あの人が洗うんだから。
中田山  放っておいてください、僕は洗いたくて洗いたくて、しょうがないんです。洗剤はどこです。
関ちゃん  洗剤は、あの人が持ち歩いているの。
中田山  あの人が持ち歩いてる。
関ちゃん  そうそう。あの人がね。
中田山  あの人ってのは誰です。
関ちゃん  依子さんに決まっているじゃない。
中田山  なんで。人に洗えって言ってるのに、なんで洗剤持ち歩くの。
関ちゃん  さあ、洗って欲しくないんじゃない。
中田山  意味が、分かんない。
関ちゃん  それか、洗うなら自分で洗剤買ってこいってことか、
中田山  怖くなってきた。
関ちゃん  え、なにが、
中田山  なんか、変、じゃない。
関ちゃん  あの人が変なのさ、私は変じゃないさ。
中田山  いや、洗剤、買ってきますよ。
関ちゃん  ダメダメ、洗わなくていいんだって。いつか誰かが洗うんだから。
中田山  いつかっていつです、誰かって誰です。
関ちゃん  いつかはいつか、誰かは誰か。
中田山  正直ですよ、
関ちゃん  でもおそらく依子さんが洗うんだろうけど、
中田山  正直ですね、
関ちゃん  うん、
中田山  僕は今すぐ帰りたい、いや、帰れないんだけど、鍵ないから、でも、今すぐ帰りたい、自分の部屋に、
関ちゃん  鍵ないんでしょう。
中田山  鍵ないんですけどね、鍵なくてもですね、この部屋で待ってる、いや、待たせてもらっているのが、なんだか、とても、あれですね、こう、ここにいるのが、ですね、
関ちゃん  窮屈、
中田山  そうじゃないんですけどね、いや、そうなんですけどね、いや。このまま帰れない気もするわけですよね、なんか、だって、お隣さんだし、いや、なんかそういうの関係ないかもだけど、だって、お隣さんなんだし、いや、だから関係ないんだけど、せめてですね、せめて、コップを洗わせていただきたい、洗わさせてください、コップを。
関ちゃん  そんなに、そんなに洗いたいか。コップを。
中田山  買ってきますよ。コップを。
関ちゃん  コップを。
中田山  あ、違った、洗剤を。買ってきますよ、洗剤を。

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  えっ。

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  えっ。あっ、うーんと、そうか、ちょっと。
中田山  なんですか、
関ちゃん  しっ、ちょっとごめんね、ちょっと、ね、ここにいて、ね。ちょっと。

 

  中田山、ベランダに連れて行かれる。

 

中田山  えっ、なんで、

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  はいはーい、ちょっと待ってね、ちょっと、待ってね、

 

  関ちゃん、玄関へ、

 

関ちゃん  あら。
まりも  あ、すみません、ええと、
関ちゃん  ああ、中田山さん、
まりも  そうです、そうです、隣に、一緒に住んでる。
関ちゃん  あがって。
まりも  あ、いや、私、迎えに来ただけですので、
関ちゃん  いいからいいから、せっかくだから、ご飯食べよ、
まりも  いや、でも、
関ちゃん  もーういいよー。

 

  関ちゃん、ベランダへ。

 

関ちゃん  もういいよ。
中田山  鍵、鍵、
関ちゃん  あ、そっか。ごめんごめん。

 

  まりも、ゆっくりはいってくる。

 

まりも  おじゃましまーす。

 

  中田山、でてくる。

 

まりも  あっ。
中田山  寒い寒い。
関ちゃん  ごめーん。
中田山  あっ。
関ちゃん  よかったね、お家に帰れるわね。
中田山  ああ、うん、
まりも  なんで、ベランダ。
中田山  いや、ん、なんで。
まりも  うん、なんで。
中田山  え、なんでだろ、なんで。
関ちゃん  なんで、うん、そうね、
まりも  なんで、ベランダ。
中田山  え、なんで、
関ちゃん  いや、なんで、うん、なんでねえ、なんでなんで。
まりも  かくれんぼ、してたんですか。
中田山  いや、してないよ、かくれんぼ。ねえ。
関ちゃん  いや、うん、でもかくれんぼみたいなもんだよね、
中田山  え、なにそれ。してないよ、かくれんぼ。
まりも  え、でも、隠れてたよね、
中田山  いや、うん、でも、連れてかれて、この人に、なんで。
関ちゃん  まあまあまあ、座りましょうや、落ち着けましょうや、腰を。
まりも  え、はあ、でも、
中田山  あ、でも、帰れるわけだし、
関ちゃん  いや、でもあれじゃん、縁じゃん、偶然、お隣さん同士こういう風に会う機会に恵まれたわけなのだから、依子さんもご飯作ってくれるって言うし、ねえ、
まりも  はあ、依子さん?
中田山  いや、でもね、まりもちゃん、
まりも  うん、何、
中田山  疲れてないの、まりもちゃん、帰ったばっかで、
まりも  え、大丈夫、ご飯食べるだけ、なら、
中田山  あ、うん、そっか、そうだね、
関ちゃん  まりもちゃんって言うの。
まりも  あ、まりって名前なんですけど、なんか子供の頃からずっとまりもって言われてて、それが、なんかずっとって言う、はい、
関ちゃん  私、関ちゃん、関ちゃんって呼んでね。
まりも  え、はあ、関ちゃん。
関ちゃん  ビール飲む?
まりも  いや、ビールはちょっと、苦味が、
関ちゃん  あ、ビールだめなの、
まりも  はい、苦味が、苦手で、
関ちゃん  じゃあ、そうか、コップないんだ、今、あ、プロテインならあるけど、
まりも プロテイン
関ちゃん  中田山さんの飲みかけだけど、
まりも  なんでプロテイン
中田山  いや、なんか流れで、
関ちゃん  プロテインはないか、プロテインはないない、
まりも  いや、プロテイン、飲みます飲みます、
関ちゃん  え、でもプロテインだよ、
まりも  いいです、いいです、せっかくなんで、こんな機会なかなかないし、
関ちゃん  そう、、はい、じゃあ、これ、
まりも  え、なんです、これ、
関ちゃん  いや、コップがなくてね、
中田山  あ、
まりも  ああ、でも、この、なんだ、これ、なんだ、
中田山  ん、シェイカー、
関ちゃん  容器、
まりも  あ、容器、
中田山  シェイカーじゃないか、
関ちゃん  いや、でもシェイカー、うん、
まりも  まあ、この、シェイカー、振るやつで、そのままで、
関ちゃん  いやいやいやいや、せっかくだから、せっかくなんだから、さ、はい、こんな機会なかなかないんだから、
まりも  はあ、
関ちゃん  おっとっと、
まりも  変な感じ。
関ちゃん  じゃあ、あれ、これ、私の、
中田山  あ、どっちだっけ、
関ちゃん  まあいっか、かんぱーい、
まりも  はあ、
中田山  かんぱい。
関ちゃん  ささ、どうぞどうぞ、
まりも  あ、どうもどうも、
関ちゃん  どう、おちょこプロテイン、略してオチョテイン。
まりも  これは、あれですね、意表をつく甘ったるさ。
関ちゃん  意表をつく甘ったるさ、ちょっと頂戴、
まりも  あ、はい、
関ちゃん  ついで。
まりも  はい、
関ちゃん  おっとっと、
まりも  おっとっと、
関ちゃん  うん、何、プロテイン、だね、ちびっと、だけ。の。うん、
まりも  そうなんですけどね。
関ちゃん  うん、さんきゅう。まま、どうぞどうぞ、
まりも  いや、これはこれは、どうもどうも。
中田山  あのう、
まりも  壁の色が違いますね、
関ちゃん  ん、あ、そうなんだ。
まりも  私たちの方は暖色系っていうの、部屋で違うんですね、
関ちゃん  へー、ん、何、
中田山  俺たち、やっぱこれ飲んだら帰りますよ、
まりも  え、なんで、
中田山  だって、明日も早いし、帰れるわけだし、
まりも  でも、ご飯食べるだけでしょ。
中田山  そうだけどさ、
まりも  何、
中田山  いや、依子さん、帰ってこないし、
まりも  依子さんって、
関ちゃん  中田山さんはさ、
中田山  え、
関ちゃん  中田山俊彦はさ、
中田山  え、はい、なんですか、
関ちゃん  コップを洗うんじゃなかったの。
まりも  コップ、
中田山  いや、それは、それは自分で洗ってくださいよ、
まりも  コップって、
関ちゃん  だって言ったじゃん、コップ洗わさせてくださいって、
中田山  いや、言いましたけど、
まりも  えっ、言ったんだ、
中田山  言いましたけどね、それは、だって、さっき、そう思ったっていう、今は、もう、なんか、
まりも  え、どういうこと、
中田山  いや、いろいろあって、
関ちゃん  洗ってくれるんだーって、思ったのに、だって、洗わさせてくださいって言ったんだもの、洗ってくれるんだー、ありがたー、って、思ったのに。
まりも  私、洗いましょうか、
関ちゃん  いいの、いいの、気にしないで、
まりも  え、だって、
関ちゃん  中田山さんがね、言ってきたんだから、洗わせてください、お願いしますって、
まりも  何その懇願。
中田山  分かりましたよ分かりましたよ、洗いますよ、洗えばいいんでしょうが、
関ちゃん  おおっと、なんだ、その態度、そんな態度取られるんなら洗って欲しくなんかなんかないね、
中田山  なんなんですか、洗うなって言ったり洗えって言ったり、
関ちゃん  洗えなんて一言も言ってなくない、そっちがお願いしてきたという事実を述べているわけだから、
中田山  あーあーあーあー、買ってきますよ、買ってくればいいんでしょ、コップを。

 

  中田山、洗剤を買いに行く。※靴に触れるか、

 

まりも  コップを、買ってくるの。
関ちゃん  あ、いや、洗剤、言い間違えただけだと思う、洗剤なくて、
まりも  洗剤、家にあるのに、
関ちゃん  あっ、そっか、そっちの家の借りれば良かったのにね、まあいっか。
まりも  間に合うかな、
関ちゃん  いいんじゃない、
まりも  あ、でも、ちょっと、

 

  まりも、玄関へ、
  しかし、すぐ、戻ってくる。

 

まりも  行っちゃった。
関ちゃん  素早い身のこなしね。
まりも  初対面ですよね、
関ちゃん  えっ、何が、
まりも  彼と、
関ちゃん  あ、中田山俊彦、初対面初対面、むしろ、今初めて会ったばっかだけど、
まりも  全然、初対面感ないですよね、
関ちゃん  あ、そう、かね、
まりも  あんな喋り方するんだって、思って、
関ちゃん  ふーん、
まりも  どうだっていいけど、
関ちゃん  え、
まりも  なんでコップで争いあってるんですか。
関ちゃん  別に争ってなんかないけど、
まりも  だって、初対面でコップを洗えとか洗うなとか、どういう状況っていう、
関ちゃん  あ、いや、それは、依子さんってのがいてね、その依子さんがコップを洗えって言うんだけど、私は洗いたくなくて、そしたら中田山さんがね、洗わさせてくださいってね、言ってきたわけよ、
まりも  うーん、
関ちゃん  ただそれだけのことなのよ、
まりも  ふーん、その、依子さんってのは、
関ちゃん  あっ、依子さんはね、同居人。
まりも  同居人。
関ちゃん  一緒に住んでるの。
まりも  ああ、親戚かなんか、
関ちゃん  いや、全然。
まりも  友達とかですか、
関ちゃん  友達とかではないね。
まりも  え、親戚とか友達とかではない人と同居してるんですか、
関ちゃん  そうなんだけどね、なんてったらいいのかな、同居人、ほんと、同居人としか、言えないみたいな、別に深く知り合いだったわけでもないし、気付いたら一緒に住んでて、
まりも  なんで。
関ちゃん  聞きたい?
まりも  聞いちゃいけないやつですか?
関ちゃん  聞いちゃいけないやつなんてないわよ、お隣さん同士で、
まりも  じゃあ、
関ちゃん  本当に聞きたい?
まりも  え、じゃあいいです、
関ちゃん  え、聞いてよ聞いてよ。
まりも  え、じゃあ、なんで。
関ちゃん  依子さんと私はね、ある人を共有していたのでした。
まりも  共有?
関ちゃん  その人は妻も子供もいるのでね、つまり、不倫ね、不倫相手としてね、私と依子さんは存在していたのでした、その人がね、ある日、この家に依子さんを連れてきてね、つまり、あれね、3Pね、3人プレイね、私たちは3Pをしたのでありました。そこから私たちは3Pに魅了されていくことになるのでありました。私が喘ぐのを依子さんが聞いている。依子さんが悶えるのを私が見ている。依子さんが興奮すればするほど私も興奮する、相手が気持ち良くなっているのを見ると私の方がって、気持ち良くなろうとする、私たちは自然と3Pがしやすくなるような生活に改善して行ったのね、改善っていうのかな、つまり、この関係を絶対に知られてはならない人がいる、あの人の奥さんね、知られてしまうとたいへんでしょ、だけどね、今となってはこの考えが間違っていたのかもしれないとも思うわ、私たちは、あの人の住んでるところも電話番号も、フェイスブックツイッターも知らない、知ろうともしなかったわ、そして、この部屋の鍵も渡さなかったわ、つまりこういうことなのね、物的証拠は一切残さない、これが私たちの根底に絶えずポリシーとしてね、なんて言うのかな、輝いていてね、奥さんにね、ばれるリスクを極限まで下げた状態と言いましょうか、あの人は時間的余裕さえ確保できればいつでもここに来て、ピンポーンと鳴らせばいい、そのために、依子さんには基本的に家にいてもらって、だけど私たちも生きていかないといけないからさ、私が働いて、というわけ、私たちの生活はこんな形を持ってしばらく続いたのだけれども、ある問題が浮上してね、容易に想像できることだけども、あの人が来なくなった、もう一年ぐらい来ていないのね、一ヶ月以上来ないこともあったし、かと思えば二、三日連続なんてのもあったから、分からない、一年はもう来ないという期間なのかどうなのか、だけど私たちはもしかしたら、と、思っていて、いや、でももう来ないんじゃないかとも感じていて、そして、もう来ないのだとしたら、私たちが一緒に住む理由なんて一つもないのに、私たちはこの生活を止められないでいる。もしかしたら奥さんにばれたのかもしれないし、ただ単に初めはこの関係を面白がっていたけど、それが普通になると飽きちゃったって、やーめーたっ、イーチぬーけたってことなのかもしれないし、だけどこの生活ももう終わりかけね、終わりなら終わりでいいんだけども、ね、そんな感じね、
まりも  なんだか、私には想像もできない世界が、隣の部屋で、こんな近くで、なんだか、ええと、すごく、私には、想像もつかない、
関ちゃん  軽蔑する?こんな関係?
まりも  軽蔑なんて、全く、全くなんだけど、え、だって、え、将来のこととか、考えないんですか?
関ちゃん  将来のこと?
まりも  え、だって、老後とか、いや、もちろん、このままってわけじゃないだろうけど、え、だって、結婚、とか、もしその人がずっと来てたとしても、だって、ずっと2人で暮らしていく、ってのは、え、分からない、え、なんか、いや、老後とか、
関ちゃん  老後?老後老後、老後か、老後って響き面白いね、老後って、
まりも  いや、そう、かね、
関ちゃん  老後老後、考えたことなかったね、
まりも  老後考えたことないの、老後、考えるでしょ、普通に、老後。
関ちゃん  どうしたの、そんなに老後って大事?
まりも  大事っていうか、だって来るんだから、いずれ、訪れるんだから、老後。生きてたら。
関ちゃん  かわいいね。
まりも  あ、え、ああ、なにが、
関ちゃん  かわいいかわいい、うろたえちゃって。
まりも  久しぶりに言われた、かわいいなんて、
関ちゃん  まりもちゃん、フルネームは?
まりも  早川まり、
関ちゃん  名前遊びって知ってる?
まりも  知らない。
関ちゃん  名前をね、使って、できるだけ、変えるの、でも、その名前からね、離れすぎちゃダメなの、
まりも  変える、
関ちゃん  早川まり、うーん、そうね、はやかわまり、ふやかわまり、ふやはわわり、
まりも  ふやはわわり、私、
関ちゃん  そうそう、まりもちゃんはふやはわわり、
まりも  ふやはわわり、あ、そういうこと、
関ちゃん  ふやしゃわやり、しゅやひゃわみゃり、みゃりみゃり、しゅーっやはーや、まーい、めーやっぱへーわまーい、
まりも  めーやっぱへーわまーい、早川まり、めーやっぱへーわまーい、なにこれ、私って、めーやっぱへーわまーい、ってこと、
関ちゃん  そうそう、そういうこと、
まりも  関ちゃんの名前は?
関ちゃん  私、私はね、関明子、
まりも  関明子、せきあきこね、せきあきこせきあきこ、

 

  関ちゃん、まりもにキスをする。

 

まりも  えっ、
関ちゃん  ん、
まりも  いや、
関ちゃん  ん、なに、
まりも  え、だって、
関ちゃん  ん、なに、
まりも  え、これは、どういう、
関ちゃん  なに、
まりも  どういう、こと、なのか、
関ちゃん  ダメ?
まりも  ダメ、ダメとか、いや、そういう、前に、
関ちゃん  ダメじゃないんだ、
まりも  なんで、
関ちゃん  なんで、
まりも  今、キスした、したよね、
関ちゃん  えっ、したかな、
まりも  キスじゃないの、今の、キスじゃないの、キスじゃなかったらなに、
関ちゃん  キスじゃなかったらいいの。
まりも  え、キスってなんだっけ、キスって、今のだよね、キスって、唇と唇をくっつけ合うやつですよね、
関ちゃん  ごめんごめん、したした、キスした、
まりも  なんで、
関ちゃん  なんでって、
まりも  なんでキスするの、
関ちゃん  キスなんて挨拶じゃない、
まりも  そんな、そんな、キスが挨拶だなんて、そんな、文化的な、なんだ、文化で、なんだ、育ってない、私、
関ちゃん  したくなったから。
まりも  したくなったらしてもいいの。
関ちゃん  ごめんごめん、したくなってもしちゃダメね、
まりも  したくなってもしちゃダメなの、
関ちゃん  ごめんごめん、落ち着いて落ち着いて、ささ、どうぞどうぞ、

 

  まりも、残っている、プロテインを一気飲みする。

 

関ちゃん  おっ、いったねえ、
まりも  ごめん、なんか、テンパりすぎちゃった。
関ちゃん  ごめんごめん、もうしないから、
まりも  もうしないんだ、
関ちゃん  え、して欲しいの、
まりも  いや、違う違う、して欲しくないんだけど、え、だって、分かんなくて、今、かなり、自分が、分かんなくて、え、だって、だってね、だって、こういうことされたらね、え、だって、やったーっ、もっとしてーて思うか、うわー、やめてー、最悪ーて、思うかどっちかじゃない、って思うんじゃない、うん、って思うんだけど、だって、でも、今、なんかどっちもないっていうか、いや、どっちもある、いや、待って、え、だって、もっとでかいのは、そんなことしちゃダメ、しちゃダメじゃんってこと、でもしちゃダメじゃんって思ってるってことはして欲しいって思ってるってこと、なの、か、
関ちゃん  なんでしちゃダメなの?
まりも  なんでしちゃダメ、え、だって、いや、私、そういう、でも違う、正直、嫌、とか、そういう、いや違う、違うだって、私には、彼氏が、恋人が、いるし、
関ちゃん 恋人がいるからダメなの?
まりも 恋人がいるからダメ、うん、そうじゃない、だって、恋人がいるんだもん、ダメじゃない、他の人とキスしたら、
関ちゃん  でも、私たち、女同士よ、
まりも  え、関係なくない、女同士だって、男同士だって、それは、あれじゃない、関係なくない、気持ちの問題なんだし、
関ちゃん  ん、なになに、気持ちの問題ってなに、
まりも  気持ちの問題は気持ちの問題だよね、好きだって思ってるか思ってないか、とか、
関ちゃん  好きだって思っているの?
まりも  それは、だって、分かんないんだけど、
関ちゃん  分かんないんだ、
まりも  分かんないよ、だって、今会ったばっかじゃない、
関ちゃん  分かんないんだ、
まりも  関ちゃんは、
関ちゃん  ん、
まりも  関ちゃんは好きだって思ったの?
関ちゃん  うん、
まりも  あ、いや、ええと、
関ちゃん  まりもちゃんのことね、好きだなーかわいいなーキスしたいなーって思ったの、だからキスしたの。
まりも  なんだか。
関ちゃん  なんだか、
まりも  なんだか、羨ましい、
関ちゃん  なにが、
まりも  例えばね、例えば、なんだか今日はチャーハン食べたいなーって思ってね、今日のお昼にチャーハン食べに行くことって、できる、と、思う、けど、なんだかこの人とキスしたいなーって思って、いきなりキスする、なんて、できなくない、て、思うんだけど、欲望にね、忠実、っていうの、だけども、忠実になっちゃいけない欲望てのがあって、だって、そうじゃん、この人むかつくなー、殺したいなーて思っても、殺したらいけないじゃん、だけど、その線引きは、人それぞれで、その線引きてのは、ここまでは忠実になっていい欲望、ここからは忠実になっちゃダメな欲望、っての、でも関ちゃんは、キスしたいと思ったらキスできる線引きで、私は、キスしたいって思ってもね、キスできない、線引きなのね、だからね、なんだ、羨ましい、気がする、
関ちゃん  コツをさ、教えたげようか、
まりも  コツ、
関ちゃん  勘違いしてるけど、私だって、そんな欲望に忠実なんてことないよ、全然、したいけど我慢してることだらけだよ、だけどね、こういうことやってみたいって思ったけど、でも、そんなことやったらなあって思うとき、ね、私は関ちゃんじゃあ、なあいって思うわけよ、
まりも  は?
関ちゃん  関明子じゃなくて、セフィアフィフォと思うわけよ、
まりも  セフィアフィフォ、
関ちゃん  まりもちゃんは、ホーマッカヒーアニャイだっけ、
まりも  名前遊び、
関ちゃん  私、セフィアフィフォで、あなた、ホーマッカヒーアニャイ、なんの問題もない、
まりも  ないかな、
関ちゃん  ないじゃん、
まりも  ないんだ、
関ちゃん  ないよ、ね、
まりも  え、ないか、本当に、

 

  関ちゃん、まりもに近付き、キスをする。

  依子、物音も立てずに入ってくる、

 

関ちゃん  あ、依子さん、
まりも  はうあわ、
依子  え、誰、
まりも  あ、これはこれは、あ、私は、あの、お隣の、中田山の、一緒に住んでる、
依子  ああ、彼女さん、中田山さんの、
関ちゃん  まりもちゃん、
まりも  まりもです、
依子  まりもちゃん、なんで、
まりも  なんで、なんで、でしょうか、
関ちゃん  なんか子供の時からずっとまりもちゃんて言われてるんだって、
まりも  あ、名前、はですね、本名はまりなんですが、なんか子供の時からすぐなんでもやりたがる子供だったらしくて、まりもーまりもーっていっつも言ってたらしくて、だからずっと、家族からまりもって言われてて、それを聞いた友達からもまりもってずっと言われてて、だからなんだかずっとまりもで、
依子  なんでコップを洗っていないのよ。
まりも  コップ、
依子  コップ洗ってねって言ったよね、なんで洗わないの、
関ちゃん  待って待ってよ、
依子  待たない、洗ってよ、
関ちゃん  洗わない。
依子  え、なんで、関ちゃんが使ったコップだよね、私が使ったコップ一個もないよね、なんで、関ちゃん洗わないの、おかしくない、
関ちゃん 待って待ってよ、おかしくないよ、洗剤ないんだもん、洗えないじゃん、
依子  洗剤ないわけないじゃない、
関ちゃん  ないもん、洗剤、ないから洗えないんだもん、見なよ、洗剤、ないから、

 

  依子、冷蔵庫から食器用洗剤を取り出す。

 

依子  あるじゃない。
関ちゃん  なんで冷蔵庫になんか入れてるの。
依子  この方が泡立つって関ちゃんが言ったんじゃない、
関ちゃん  言うわけないじゃん、意味分かんないよ、
依子  はい、ほら、洗剤あるんだから、はい、洗ってよ、早く、早く洗ってよ、
関ちゃん  洗わない。
依子  なんで、なんでよ、洗ってよ、
関ちゃん  あのさあ、コップを洗うタイミングってのがあるんだから、分かんないかなあ、依子さんのコップを洗うタイミングと私のコップを洗うタイミングは違うの、分かる、私のタイミングは今じゃないの、だから洗わないのただそれだけ、え、だって、今、まりもちゃん、来てるんだから、ねえ、
まりも  え、あ、はあ、
依子  まりもちゃん来ててもコップ洗えるよね、まりもちゃんとしゃべりながらコップ洗えばいいじゃない、え、できるよね、普通、その関ちゃんが言うコップを洗うタイミングっていつ来るの?昨日からずっと来てないじゃない、昨日から、一昨日から、ずっとそのタイミング来てないじゃない、え、つーか一緒に住んでるんだから、1人で住んでるんじゃないのだから、そのタイミングも合わせなきゃダメじゃない、合わせていかなきゃダメでしょ、ねえ、洗ってよ、早く、早く洗ってよ。
関ちゃん  洗わない。
依子  洗わない、ふーん、じゃあ、誰が洗うの、私は洗わないわよ。
まりも  あのう、私、洗いましょうか、
依子  なんでまりもちゃんが洗うの、おかしいじゃない、
関ちゃん  中田山さんが洗うって言ってたよ、
依子  だから、なんで中田山さんが洗うのよ、おかしいじゃない、
関ちゃん  おかしいのは依子さんだよね、
依子  はい?
関ちゃん  おかしいのは依子さんだって言ってんの。
依子  私のどこがおかしいのよ。
関ちゃん  おかしいよ、おかしすぎるよ、だってまりもちゃん来てるんだよ、初めてお隣さんが来てくれてるんだよ、なのになんでコップを洗えとかそんなどうでもいいことで怒られなきゃいけないのおかしくない、もっと、ハッピーにいこうよ、ハッピーな雰囲気醸し出してこうよ、
依子  あのねえ、関ちゃんがコップを洗えばみんなハッピーになるっての、関ちゃんがコップを洗えばね、
関ちゃん  だから、そうやってガミガミガミガミ言うから洗いたくなくなるんだっての、え、そんなにコップを洗え洗え言われて洗えると思う?もう無理じゃん、洗えないじゃん、私、え、どんな顔して洗えばいいの、私、どんな顔したら今コップ洗えるって言うの、
依子  コップを洗うのにどんな顔すればいいとかないから、ただただ普通にコップ洗えばいいだけなんだから、
関ちゃん  ただただ普通にコップ洗えなくしたのは依子さんだよね、私だって依子さんが洗え洗え言わなければただただ普通にコップを洗ってたよ、でもそれできなくしたのは依子さんじゃん、
依子  なに、私が悪いの、私がおかしいの、ねえ、私、おかしいかな、
まりも え、いや、全然、おかしくないと思いますよ。
関ちゃん え、じゃあ私がおかしいの、
まりも  いや、関ちゃんもおかしくないおかしくないよ、
依子  なによ、それ、
まりも  いや、だってどっちも言ってること分かるし、どっちの言い分も分かるし、そりゃあ、コップを洗わない関ちゃんは悪いけど、洗え洗えって言われて洗えなくなる気持ちも分かるし、だけど、誰かが洗わなきゃ、ずっとコップはそのままだって気持ちも分かるし、コップがずっとそのままだったら、ずっと飲み物をコップから飲めないわけだし、ずっと飲み物をコップから飲めなかったらさ、缶とかペットボトルとか紙パックとかから直接飲むしかできないとなると、やっぱり不便だしね、不便っていうか、だって、急に飲みたくなることもあるし、水とか、寝る前とか起きたあととか、ぐびぐびいきたくなることあるし、だから、私が言いたいのは、コップはいつでもすぐに使える状態の方がいいよね、って、ことで、つまり、だけどね、結局はいつかどこかで誰かが洗わなければいけないんだけども、いつかどこかで誰かが洗わなければいけないってことは、いつかどこかで誰かが妥協しなければいけないってわけ、ですよね?だから、二人とも洗いたくないとして、どっちかが妥協しなければいけないんだけど、どっちも妥協したくないって時に、あのー、あ、これは、どうなんでしょう、幸いなことにと言いますか、偶然のことにと言いますか、あのー、ね、いや、ほら、Aでもなく、Bでもなく、Cとして、Cとしての私が、えー、ここに、今ここに、ね、存在しているわけですよね、何故だか、奇跡的に、運命的に。あ、だから、この場合だけ、
依子  いや、それはおかしいでしょ、
まりも  それはおかしいんだけど、分かってるんだけど、だってだって、関ちゃんが洗うべきなのは、それはそうなんだけど、関ちゃんは、もう、あれだから、もうさ、洗えない状態入っちゃってるから、いや、分かってる分かってる、関ちゃんだって1時間、2時間もしたら洗ってくれるかもしれないって、私は信じてるし、分かってるつもりだし、そうであって欲しいと願っているし、ただ、今は洗いたくないんだよ、そう、今なのよ、今が問題なのね、だってだって依子さんは今洗って欲しいわけですよね、だけども関ちゃんは今洗いたくないわけだ、そう、問題は今ってことがはっきりしていて、今をどう乗り切るべきかってのが問題で、このまま洗え、洗わないを繰り返していてもずっと今が続くわけで、ずっと今が続いたってずっとコップは洗われないままなのね、だからこそ言ってるわけです、だからこそ、今だけ、今回だけ、ね、本当、今回だけ私が洗いますので、関ちゃんさ、次回からちょっと気をつけてもらってさ、コップたまらないように、さ、ね、ちょこちょことコップを洗うように努力しようよ、今だけ、本当、今回だけは、あのう、洗いますので、私が、と言いますか、洗わさせてくださいよ、いや、本当本当、あのう、お二人はゆっくりくつろいでいただいて、ほらほら、ソファに座っていただいて、ね、よーし、やるぞー、と、って、冷た、洗剤、冷たいよ、どういうこと、冷蔵庫に洗剤入れるといいって何情報ですか、テレビ、テレビ情報?、
関ちゃん  あ、テレビ、リモコンは?
依子  拾ってきたわよ、ほら、

 

  ピンポーン。

 

  間。

 

関ちゃん  中田山俊彦?
依子  ああ、そういえば、いないね、中田山さん、どこ行ったの?
関ちゃん  ああ、洗剤、買いに、
依子  洗剤?

 

  ピンポーン。

 

依子  まりもちゃんはいたって問題ないね、
関ちゃん  あ、そっか、まりもちゃんは別にいいんだ、
まりも  え、ちょっとちょっと、なんですか、別にいいって、
関ちゃん  別にいいんだもん、別にいいじゃん、

 

  ピンポーン。

 

 

続く、、

明夜、蛇になれない

 

女、いる。

耳にイヤホン。マイク付き。

イヤホンのコードの先は服のポケットの中。

 

もしもし、もしもーし、聞こえている?私。いきなりごめんね、どうしてるかと思って、どうしてたっていいのだけども、どうということもないのだけども。なんだかね。なんだか、ふと、電話をしたくなってね、いきなり電話をしてみたというわけ。そうそう、いきなりいきなり、ラインで、今から電話していい?て聞く類の電話じゃなくてね、いきなり電話して、いきなり話し始める、そんな電話ね。だからいきなりごめんねとは言ったけど、いきなりじゃなく電話しようだなんてこれっぽっちも考えていなかった、そもそも、今の今まで、電話をしようだなんて考えてすらいなかった、ふと、電話をしようと、今ふと、思ってしまったわけ。なになに、そんな電話に付き合わされる相手の身にもなってみろって、分かる分かる、それは分かる、だけどもこれはいきなり電話だから、いきなり切ることも可能というわけよ。いきなり始まるし、いきなり切れる、そういう類の電話というわけ。そういう類の電話をしたくなることが、現代を生きる私たち人類には起こりうるのではないであろうか。話が壮大すぎる、分かる分かる、だけども、そのような壮大な話がしたいわけではないのね、もっと些細な、ふと、訪れる話でいいのだわさ、そしてふと切りたくなったら切ってくれていいのだわさ。だけどもこの、ふと、というやつはどこからやってくるのでしょうか。つまり、ふと、酸辣湯面を食べたくなる、ふと、全速力で走り出したくなる、ふと、電車の中の吊革を揺らしてみたくなる、この、ふと、というやつはどこからやってくるのかと思ってしまったのは、今の今、私がこの状況下において、ふと電話したくなって、ふと思ったことでありますのですよ。この状況下ということについて、少しばかし話しておきたいんだけどさ、そのために、今日の私のざっくりとした一日について話させてくれね。私は、今日、朝目覚めると異様に身体が曲がっているんじゃないかと思い始めた。つまり、背骨が気になり始めた。いつものように目を覚ましたベッドの上で伸びをした時に、ああ、起き上がりたくないなあ、と思ったのは寝疲れていたからであり、何故寝付かれていたのかと言えば、昨晩、私は、飲んでいたわけでもなく、病んでいたわけでもなく、帰り電車の満員電車のキュウギュウ電車の一番ドア際で、掴む吊革もなく、何度見たのかわからない、ドアちょい上の液晶画面を上目で見ながら、画像と文字で繰り広げられる無音CMを上目で見ながら、停車駅に泊まり、私は、なんかの法則において、その、中学校かなんかの理科でやった速度に関する法則にのっとってね、動き続けようとする私の身体と止まろうとする電車のアレにおいて、うまく立ち続けることができなくなって、身体の重さに負けて、隣の、あんなに狭いぎゅうぎゅう電車の中でさえ扇子で自分を冷やそうとする中年のふくよかな大きなもはやマットと化した身体にほぼ全体重を預けるに至ったわけ。もちろん私は彼がいる方に向かって、伏し目がちに頭を下げたんだけども、そしてもちろん私は彼の顔を見ることはできなかったのだけども、私の錯覚でなければ、彼の視線は私の首の左側面かもしくは、左頭の耳の上あたりに目から点線がテッテッテッテッテと出ているように注がれている気がしたのだけども、彼の方を見たわけではないので分からなかったし、そもそも、停車してドアが開いた瞬間に、降りようとする人々に半分押される形で、その電車を降りて、乗ろうと待っている人たちの列と電車の間の1人専用かの如くぽかっと空いた空間にね、即座に収まってね、大量に吐き出されていく人々を見ていて、電車さんのお腹も大変だ、これは胃炎ものだって、吐瀉物じゃんって私はいつも思うんだけど、その時は全くそんなことは思わずに、その注がれたテッテッテッテッテの点線視線について、言い訳のようなものを考えていたんだけど、だって、聞いてよ、吊革がなかったんだもん、掴むところもなかったんだもん、しゃあないやん、って心の中で、ブツブツブツブツ、怒涛に溢れていく言葉が湧き上がる中、車内に戻った時には、そのふくよかな扇子さんはどこにもいなくて、ふと空いてる席を見つけて歩きはじめるんだけど、向こうからその席を狙ってきているおばあさんとまではいかないが私よりも少なくとも20ぐらいは年上そうな女性に譲るか譲るまいか、だけど確実にこのペースで行けば私のものであるその席を譲るか譲るまいか、という判断を即座に下し、譲るとしたって、私は、もともとそんな席なんか狙ってませんでしたわよ、わはははははー、というスタンスにおいて、その空席手前で右側45度に急速方向転換したんだけども、方向転換した先にはもうたくさんの人が乗ってきていて、なんだかんだで、人の隙間を縫おう縫おうとしているうちに、はたまたドア付近まで来ていて、掴むところあるんやったら見せてみろやってまた喋り始めてみたのだけども、ふと、その無音CMとドアの間にちょいとくぼんでいる部分があって、掴んでくださいとの如くこっち側に伸びている、なんて言ったら、いいんだろう、まあ、とにかく掴むところがあって、掴むところあるじゃん、って思って、しかして、この液晶とドアの間に突き出ている掴むところの掴みにくさったら本当に掴みにくくて、斜め上側に突き出ているならともかく、斜め下に突き出ているのだから、それにプラスして、すべらない材質でつくればいいものを、ツルツル滑る材質でつくっている故に、私の指は汗か油かも相まって一定の場所を掴むことができなくて、尚且つ斜め下に突き出ているために、尚も且つ且つ掴むことができる場所が指の第一関節部分にいかないぐらいの突き出の短さにおいて、私の指は何度も何度も離れてしまうのであったわけね。つまり私が声を大にして言いたいことはね、掴んでくれと言わんばかりに突き出ているものを、何故にもっと掴みやすくつくらないのだ、ってことなんだけども、電車のドアと液晶部分の間にあるちょっと掴める突き出てる部分、掴みにくくねって話をわざわざしようとしても、それはなかなかできない代物なわけでね、どんなに気心が知れた友達でさえ、電車のドアと液晶部分の間にあるちょっと掴める突き出てる部分の話をするためだけに電話をされたらさすがに怒るかもしれないでしょ、大分ムカつかれるかもしれないでしょ、だけども、どうしてるかと思ってトークという、彼、あるいは彼女の近況報告を尋ねるという、電話した全体的な理由はこれですよ、というスタンスにおいて、一部分だけとして、電車のドアと液晶部分の間にあるちょっと掴める突き出てる部分の話を食い込ませるとしたらどうかな、そのようにすれば電車のドアと液晶部分の間にあるちょっと掴める突き出てる部分の話だけしたくて電話をしたとは思われないわけだから、だけども、そんな用意周到に他人を欺いてまでそんな話をしたいわけではなくて、ね。しかしね、だとしてもね、飲み会の席かなんかで、いきなりこの話は持ち出せないわけでしょ、そもそも今の職場では、プライベートに関しては全く関せず理念を誰もが貫いていて、つまり、私は長らく飲み会へのお誘いを受けないわけで、ってそんなことはどうでもよくて。つまりね、つまり、なんだっけ。つまり、この話をするのに一番ふさわしいのがあなただと思ったわけ、だから電話をしたというわけで、ね。なんだっけ、ごめん、なんだか私ばっかり喋っているね。こんなに喋るつもりではなかったんだけども、ね。だけども、電話というのは喋るためにあるんだから、こんなに喋っていても不思議ではないのかもと思う。だって、喋らないとするね、電話して、喋らないとするでしょ、すると、なんだか電話の意味がないっていうか、いや、待って待って、そんなことあるかい、ちょっと待って。喋るのをやめてみましょうか。。。。。。

 

  間。

 

ふむふむ、もしもし、もしもーし、聞こえている?いきなりごめんね、黙っちゃって。とってもあれですね。喋るのをやめたって、電話は電話なのですね。つまり無言を共有している。無言という時間ね。つまるところ電話とは離れた場所におけるお互いの時間の共有てところかしら。どちらかがその電話を切らないかぎり続く時間の共有ってとこね。だけどもあなたとのこの電話はいきなり電話であるのだから、いきなり切ってもらって構わないということになっていて、つまりは共有の時間はいきなり、ふと、はじまり、いきなり、ふと、終わることになるんだけども、まだまだ切ってくれないということは、まだまだ共有していいことが私たちにはあるわけで、そもそものところで、私たちには共有できる時間があまりにもあったにも関わらず、あまりにもありすぎたという気がしていて、私は、なんだか、なんだか、ね。いや、そうそう、なんだかなんだかで電車の話をしていたらだいぶ脇道に逸れてしまっていて、そもそものところで、私は、私の今日の1日について話し始めたのに、今日にはなかなか至らずに、昨日のある時点で、停車していたのだけども、そう考えると電車の突出部分も、扇子さんの点線視線も、おばさんとの空席争いにおける敗北も、全くどうでもいいことであって、つまり、なんで昨日の話をしはじめたかってのはこういうことなのね。最寄駅に着いてね、さっと外に出ると、外は大雨でありました、ザーザーザーザー降っていました、私は傘を持っていなくて、オウマイガットってわけね、だけどもね、そこでね、ふと、ある考えが私には浮かんでいてね。この大雨の中を全速力で走りだしたら、どんなに愉快だろうか。っていう言葉が私の頭の中に浮かんでいて、誰の言葉っすか、って明らかに普段自分が使わない言葉のニュアンスが頭の中に浮かんでいて、この大雨の中を全速力で走りだしたら、どんなに愉快だろうか。って言葉はね、冗談のようにふと発生したこの言葉がね、だんだんと、私の中で膨らんでしまって、本当に、マジで、ガチでやっちゃおうかって、マジで思って、その瞬間即座に、よし、ゴーって走りはじめるんだけど、走りはじめた瞬間コンビニが見えて、コンビニが見えた瞬間、コンビニに駆け込んでいて、600円ぐらいする傘を買った。そして私は歩きはじめるんだけど、もちろんのことで傘をさして、ね。だけど、それは昨日の話で、今、今ここの私も実は歩きはじめようとしていて、つまり、2日連続で私は歩きはじめようとしていて、いや、おかしいね、2日連続で歩きはじめようとするって言うと、なんだか私は毎日歩いてないみたいに聞こえるんだけども、もちろん私は、休日以外には出勤という形で、家から駅まで、駅構内、駅から会社まで、という道のりを毎日のように歩いていて、今言いたかったのは、つまるところ、2日連続で歩きはじめるということを意識しているということになりますでしょうか。昨日の大雨はそれはそれはひどくて、私は、どうしようかと考えざるをえなくて、全力大雨ダッシュをしようかと目論んだわけだけども、いろいろと、後のことを考えたりね、服が濡れることを考えたりね、靴下が濡れることを考えたりで、靴下が濡れるっていうのは、私にとっての世の中でおこる不快ランキングにおいて、だいぶ上位にランクインされると思っていて、まず、靴と靴下が互いに濡れていて、歩くたびに、と、言うより、足をあげるたびに、靴と靴下=足の裏側は少し離れるわけよね、なんで=かは靴下は足にまとわりついているものだからという単純なる理由においてで、足をあげると靴と靴下=足の裏側は互いに離れて、足を踏み込むと、離れたのがくっついて、靴=靴下=足となるわけね、つまり接着面の話ね、あまりにも当たり前すぎることを言っているんだけど、これのどこに不快ポイントを感ずるのかという話で、明らかに後者、つまり足を踏み込んだ際であり、靴=靴下=足、の状態にあり、不快ポイントは踏み込んだ際に起こる身体の重さによって靴下に浸みている水分がじゅわっと、いや、にゅわっと、溢れ出てくるわけよね、肉汁みたいに。ハンバーグ焼いているのをさ、想像してみて。その焼いているハンバーグをさ、ちょっと、ヘラでさ、上からヘラでさ、押し付けてごらん。ジュー、どうかね、溢れんばかりの肉汁が出てきたかね、その現象が私の靴の内部において起こっている、どうかね、だいぶ不快じゃないかね、もちろん、私の靴の中はハンバーグの肉汁のように油ギッシュな水分がでてくるわけではないのだけども、その水分はそれでもあまりに不快でさ、蒸れていて、湿気ていて、そんな水分がじゅわっと一歩歩くたびに溢れていく。その溢れ出た水分が、もうすでにビショっている私の足にまたもやビショりつく。それが第一の不快ポイントね。第一のと言ったのはもちろん第二の不快ポイントがあるわけで、その第二の不快ポイントについて話そうと思ったのだけども、またもやまたもや、本来話そうとしていた路線から乗り換え始めているようであるので、一旦立ち止まってみようと思う。もちろん、ね。もちろん、その濡れ靴下における不快ポイントは全く関係ないという話ではなくて、むしろ昨日久しぶりにその濡れ靴下現象を体験したのだけども、つまり、靴下が濡れるのが嫌で、全力大雨ダッシュをしなかったにも関わらず、私の靴下はそれでも濡れていて、ね、昨日の大雨はそれはそれはひどいもので、600円ちょいのビニール傘をさしても尚、濡れる有様で、つまり、傘によって上からの雨は防げども、風によっての横からの雨にはまるで無防備で、尚且つ、風によって私は十分に傘を操ることさえできずに、尚も且つ且つ、私の右足は、歩道と車道の間のコンクリ部分がボコボコになっている部分に飛び込み、飛び込むというよりかは、急降下し、私の右足=靴=靴下はビショビショになったのであった。だけどもだけどもね。それは、昨日の話であってね、私がしたかったのはもちろん今日の話で、今日の朝の私の背骨はあまりにも曲がっているように感じられて、それは今日気付いたのか、それともずっと前からそう感じていたのか、おそらく、ずっと前からそう感じていたのだけども、今日確実性を持って背骨が曲がっていると思ったのは、あまりにも寝過ぎていて、寝疲れていたからであり、時計も見ずに寝込んでいたわけだから、何時間寝たかも分からないのだけども、接骨院に行こうと思ったのね。結論から言うと、その接骨院には行けなかったわけなのね。つまり私が行こうと思っていた接骨院は、私がこの街に住んでいた時に通っていた接骨院なわけだけども、私があったと思う場所から姿を消していて、それはその接骨院がなくなっているのか、私が久々すぎて場所を間違えているだけなのか、今となっては判断がつかなくて、でも、この階段のぼったよなあっていう階段はあってね。だけど、私はその階段をのぼらなかった。何故なら、私の中に焼き付いてあるあの接骨院の、緑色の、長方形の看板が見当たらなかったから。そして私は目的がなくなったのでした。目的がなくなっても私の背骨は曲がったままであって、つまり私の背骨が異様に曲がっている原因は、誰でもできる、簡単データ入力のお仕事の如きカタカタ作業を始めて一年以上経過したことにあるのだ思われるのだけども、そのカタカタ作業の座り作業において、PCのディスプレイと見つめ合って、カタカタし続けていた私は、私の背骨は、徐々に徐々に、あまりにも徐々に徐々にカタカタカタカタと曲がっていってしまったのであったわけよ。そんなゆったりとした変化が私の体の中には起こっていてね、って、そんなことはどうでもいいんだ、そうして接骨院に行けなかった私は、すぐさま、即座に、一刻も早く自分の家に帰ろうと地下鉄の改札をくぐり、電車が来るのを待つために、ベンチに座っていて、ベンチに座りながらも、久しぶりに来たこの街のことを思い出していて、思い出しながら、幾度も着いては出発していく電車を眺めていて、ついに、念願の今に至るわけね。つまりふとあなたに電話をしたというわけ。今、やっと今にたどり着いたのだけども、これから、今これからの今日について話そうと思っていて、私はふと、こういうことをしてみようかってのが浮かんでいて、昨日のふと浮かんだ大雨全力ダッシュは実行に移すことができなかったというのがあって、私は、ふと、こういうことを考えている。つまり、あなたの家に行ってみようかと思っている。あなたと住んでいたあの部屋に行ってみようかと思っている。大丈夫、大丈夫よ、全然大丈夫。全然大丈夫だから、ね。あなたに何か訴えかけたいとか、あなたに一言かましてやりたいとか、あなたと少しだけでも一緒にいたいとか、ね、そういうのじゃないから、ね、なんだか、ふと、この駅からあの部屋まで、毎日通っていたあの帰り道を歩いてみようかと思っている。わけで。どう思う。どうも、思わない。それは行ってもいいってこと、かね、行っても差し支えはないということ、かしら。私は今、立ち上がっている、私は今、歩きはじめようとしている。これがさっき話した、あれ、さっきだっけ、もっと随分前のようにも感じられるのだけども、私は2日連続で歩きはじめようとしていて、否、否、2日連続で歩きはじめようとすることを意識していて、この話についてはしようと思った途端にどこかへ飛んで行ってしまったようであり、歩きはじめることを意識するためには、立ち止まっていることが必要で、そもそもそもそも、立ち止まっていないと歩きはじめることができないわけで。ね。立ち止まっている。文字通り、立って、止まっている。なるほど、こういうことも言えるわけだよ。つまりは、昨日の私も今日の私も歩きはじめることを意識していて、つまりすなわち、私は2日連続で立ち止まっているわけであり、すなわちすなわち、昨日までの私は歩きはじめることを意識していなかった=立ち止まっていなかったとも言えるのではないか。いや、待ってよ、と。そんなわけあるまいか、と。そんなら君は、電車を待っておる時、信号を待っている時、コンビニで列に並んでいる時において立ち止まらないのかい、って声が聞こえてきそうであり、イエス、イエスでありますよ、つまりすなわちどんなに立ち止まっていようと、立ち止まったと意識しなければ、それは立ち止まったことにはならないのですよ、ね。 逆に言えば、どんなに歩いていても、走っていても、笑っていたって、泣いていたって、羽ばたいていったって、とんぼ返りをしていたって、今、立ち止まったと思えば、それは立ち止まっているわけで、私はコンビニでレジに並んでいる間、あ、今立ち止まったな、今立ち止まったよ私、とは思わないわけで、私が今、何故にこんなに立ち止まっている立ち止まっていると話しているのかは、私は現に、文字どおりにも、はたまた意識の上でも立ち止まりながら、目の前に電車はゆっくり到着しているからであり、プシューっ、ピンポンピンポン、と開いたドアから電車に乗れば、即座に帰ることができ、今日は接骨院に行ったのに、接骨院がやってなかったから何にもしない1日だったな、はははー、と笑い話にしたところで、誰に話してもしようもないことは重々承知の助な故に、誰にも話さないであろう笑い話、笑い話でもないのかもしれない失敗談を増やすだけで、身体を休めることができる我が家に帰ることができる家に帰ろうか帰るまいかと、立ち止まっていて、帰らないにしたところ、この電車は最終電車であるようで、つまり私は何時間このベンチに座っていたのかもわからないぐらい座っていて、いや、今は立っているのだけども、文字通りに、立って止まって眺めているのだけども、ちょっと前まで、ホンのちょっと前までは座り続けていたはずであり、それなのに私は背骨の曲がり具合については、忘れていて、こんなに座り続けていたならば、私の背骨は一気に曲がりを進行させていたはずなのに、背骨のことは一切気にしていなかったという事実を今知って、今驚きを隠せないわけで、そもそものところ、私には本当にそんなに長い時間を、あ、あ、あー、あ。。。。。。いや、後悔なんてしていないんだけどね、もちろん、私がこんなに長々としゃべっている間に、扉は閉まってしまったようで、プシュー、プシュシュシュー、と動き始めているわけで、つまり私は最終電車を逃したってことになるわけで、それはあまりにも当たり前な事実確認となるわけで、そして私は歩きはじめている。ね、歩きはじめた。もしもし、もしもーし、聞こえている?歩きはじめたよ。だから何って、ね。まず、この地下の空間から抜け出ないといけないわけだけども、この駅には改札階に行くために二つの出口があって、つまり中央改札口と西口改札口とあるわけだけど、私は、何年かここを最寄りとして住んでいた経験から西口改札は夜十時に、いや、十一時だっけか、にシャッターが下ろされることを知っていて、つまり私は、中央改札口から出るしかないわけでいて、あ、これは、なんだか、とても気になるものを見つけてしまったわけだけども、地下鉄のホームに水飲み場があるという事実に私は、気付いているようで気付いていなかったようで、つまり今まで意識したことがなかったようでいて、あれ、この駅にもあったっけか、という驚きもあって、ホームにある水飲み場、つまり蛇口式の、上から噴水のごとく勢いよく飛び出すやつと、下に流れ出る、複合タイプの水飲み場で、公園とかにもたまに置いてある、この水飲み場を駅構内で見たという記憶はあるんだけども、それは、この駅だったか、全く違う地下鉄のどこかのホームだったか、定かではなくて、ただひとつ言えることは、ホームに置いてある水飲み場で、水を飲んでいる人を私は一人も、今までで一人たりとも見たことがないということね、もちろんのことで、私もそこで水を飲んだこともなければ、手を洗ったことさえなくて、ってあれ、え、うわ、あれ、マジかいや、マジかいや、いや、いい方の驚きなのであるが、魔化魔化不思議な現象が今の私に起こったというわけなのでありんす。つまり私は階段をのぼって、改札機が見えたところで、水飲み場の話をしながらも、ああ、と思っていて、それはさっき話したとおり、私は今日、接骨院に行けなかったが故に、すぐさま、即座に、一刻も早く、家に帰ろうと改札をくぐったにも関わらず、私は、電車に乗らなかった。つまり、私のパスモはこの改札機で悲鳴をあげるはずで、それはパスモは入場券として使用できないからであり、ある駅から乗って、その駅で降りようとしたら、ピンポーンとなるはずで、駅員さんにすみません、間違って入っちゃったんですけどー、なんて適当なやりとりを済ませなければ出られないわけなのにも関わらず、私のパスモは難なくこの改札機を通過した。摩訶摩訶不思議アドベンチャーではないかね。え、そんなに不思議ではない、待った待った、私は、入場券などというものは必要かという疑問を投げかける立場の者である。入場券というものは、券売機の端っこの離れ小島みたいなところにあるボタンで120円か140円かそこらで買える、駅構内に入るため専用の券であり、つまり、友人、家族、恋人など親しい存在が遠く離れていく状況下、ホームまで見送りたい、列車が発車するのを見送りたいと、そういう人専用の券であるよね。ほぼほぼ。だけども私は入場券を使って改札を通っている人を見たことがないわけで、それは水飲み場を使っている人を見たことがないというのと同じに見えて実は全然違う現象だってことに私は気付いているのだけども。つまり、改札を通っていく人が交通系ICカードやスマホで改札を通っていくのか、切符で通っていくのかは一目見れば即座に、否応なしに分かるのだけれど、その中で切符で通っていく人が、入場券で通っているのかそうでないのかは、いくら念入りにジロジロ見たって分かりっこないわけであるのよね。つまりここが入場券と水飲み場の違いであるわけで、入場券を買うというのは、買った本人以外、ほぼほぼ認識できないってことね、その反面、ホームの水飲み場で水を飲んでいる人がいれば、一目でわかるわけであり、あ、水飲んでる、と、本人だけでなく、その光景を見た誰もが思うわけであり、にも関わらずも、私はその光景を見たことがないというのは不思議な話で、つまり入場券はもしかしたら、私が見ていた光景の中で使われていたかもしれないが、水飲み場は、今まで私が見た光景では一度たりとも使われたことがないってことなのね。そもそも私が使うような駅で入場券なんて使われることはあるのかしらって思うんだけど、田舎のさ、そこからしか街の外に出られないみたいな駅とか、その県や街で一番大きい駅とか、新幹線が通っている駅とかなら分かるよ、サヨナラにふさわしいって言うかね、さよーならーって、手を振りながら、電車を追いかけていく映画の名シーンが浮かぶけども、私が使うような地下鉄だとか、都内の五分待ってれば一本来るような電車で、さよーならー、はしたくてもできないわけで、さよーならー、なんてしても、実際、人はたくさんいるわけだから、さよー、あ、あ、あすみません、さよーなら、あ、あ、ちょっとそこどいてもらえますか、あ、あ、あー、てな具合に、人の位置情報を完全に網羅した状態でないと、中途半端なさよーならーになってしまうわけで、そんな大声で追いかけたりはしないにしたって、だけども、そもそも私たちにはそもそもそもそものところでさよなら電車の場面なんて時は訪れるのであろうか。とか話しながらも私は階段をのぼっていて、今、まさに、今、地上に降り立ちましたよ。降り立つ、のぼり立つ。のぼり立ったその場所について話そうと思うのだけどもいいかな。よくなくたって私はしゃべるんだけども、私たちは今、しゃべるということ以外はもはやなにもできないのだからしゃべるしかないわけで、そんな私がこの街について話そうと思っているというのはどういうことかしら。かしら。かしらなんて言ってる。私。かしらなんて言ったことあったかしら。そんなタイプだっけ、私、そんなキャラだっけか。だけども、そんなタイプでもキャラでもなくたって、かしら、と言いたくなる時はかしらって言うものなのではないかしら、あら、こんなところに回転寿司屋なんてあったかしら。牛丼屋さんと蕎麦屋さんと並んでいるのはあの時のままであり、回転寿司屋はあったかどうか、あったとしても意識していなかっただけなのかしら。なるほど、変化しているというのは、変化する前があってはじめて感じられるものであるとは思わないかね。つまり私の背骨は曲がっていなかった。曲がっていたとしても、曲がっていないかの如くに意識できていた、だけれど、徐々に徐々にと、カタカタするうちに曲がってしまっていた。この曲がる前の背骨を私が感じられていなければ、それは曲がっていたとしても曲がっていないということになるのだろうと思うわけで、それは回転寿し屋なんてあったかしら、という現象に沿って考えるなれば、回転寿し屋になる以前の情報をおぼろげながらも持っていて、そこには回転寿し屋なんてなかった気がするのだけども、少なくとも、回転寿し屋のあった場所を意識することはなかったわけだから、回転寿し屋なんてなかったということになりはしまいか。つまり私の回転寿しにかける注意力の話がそこから沸き起こってくるのよね、私は回転寿し屋があれば見逃さない。回転寿し屋が住んでる街のどことどことどこにあるかは基本的に把握しているというわけ。私は昨日の大雨でビショビショにビショったわけであるのだけども、ビショビショにビショリながらも考えていたのは回転寿しのことなのであって、これは本当に偶然としか言えなくて、今日回転寿しの話がふっと出て思い出したのは、昨日、電車に乗る前に、私は確かに回転寿しのことを考えていた、行こうと思っていた、炙りトロサーモンのことを考えていた。だけども大雨によっていくことを断念した。断念したというより忘れていた。そのことを思い出したのは濡れ靴下現象におけるハンバーグの肉汁のことを考えていた結果であり。そこから、私は一人回転寿しにおける極意について考え始めていたのだけども、考えてみると面白い話で、私は、昨日から、なんだか実行できていないことが多すぎるのではないか。ねえ、思わない?接骨院に行けなかったわけだし、全力大雨ダッシュもできず、回転寿し屋にも行けなかった、そんなに多くないか、普通か、もしもし、もしもーし、聞こえている?どう思う。そんなに多くはないかね。今ね、あの大通りの古い携帯ショップを左に曲がった、パチンコとかDVD鑑賞室とかある商店街に入った。チェーン店の飲み屋さんがいっぱいあって、看板がどれも明るめの色で、ゲームセンターのシャッターは閉まっている。だけどもここに立ち食い焼肉の店なんかはなかった、それははっきり分かる。何故ならば、その変化前を私は知っているからで、そこは立ち食い焼肉ではなく、汚い定食屋だった。おじさん一人でやってる、カウンターだけの。私はその定食屋のことを覚えているわけなのだけども、それは私がこの街に引っ越してくる前に来たことがある定食屋で、この街について物心がついたのはこの時だと言わざるをえなくて、物心がつくというのはちっさい子の意識がはっきりしてくる時に使われる言葉だと思うのだけれども、これはもっといろんな場面で使える言葉だと思っていて、どうかね。例えば私が鳥獣戯画を習い始めたとするね、鳥獣戯画でなくとも、ボルダリングでも、消しゴムサッカーでも、なんだっていいんだけど、最初は鳥獣戯画を習い始める前は、てんで分からず鳥獣戯画という全体をざっくりと見ることしかできないのではないかと推測するのだけども、だんだん鳥獣戯画に触れ合うにつれて、戯れるにつれて、このウサギの耳の跳ね具合が絶妙だとか、カエルの口の内部構造が簡素で、この簡素さに食われたい、なんて、初めての時には感じられなかったことが感じられるようになってくるんだと思うんだよね、そこで私は鳥獣戯画に対して物心ついてきたなあー、私、なんてことを思うんじゃないかしら。もちろん私は鳥獣戯画を習い始めていないし、今後も習い始めることはないと思うし、そもそも鳥獣戯画ていうのは習い始めるものなのかどうかさえ分からないのだけども、つまり物心がつくというのは何に対しても言える言葉であるわけで、鳥獣戯画にしろ、ボルダリングにしろ、電信柱にしろ、自動販売機にしろ、初期微動継続時間にしろ、ハビタブルゾーンにしたって、何に対しても物心がつく可能性があるわけで、そこで、私は何を言いたいのかと、物心、物心と、ものものごにょごにょ言ってますが何を言いたいのだと、もちろん私が言おうとしていることはあなたに関してのことであって、それ以外ではありえないのだけれども、あなたに対して私は物心がついていたのかしら。私たちは言わずもがな、同じ時間を共有し、同じ部屋を共有し、同じ街を、同じ生活を共有していたのだから、あなたに対して物心がついていないってのはありえないことじゃないかしら。だけども物心はつくというのだから、はがれるという事態もありうるのではありますまいか。 あなたが剥がれて行った時、あなたがふと私から離れて行く時、私はオウマイゴット、ドンリーブミー、プリーズドンゴーエニモアーと言えなかった。言えなかったというより言わなかった。なんだそういうものかと考えていた。そこには絶望も失望もなかったようであって、だけどもそれは私しか知りえない感情で、入場券を買ったということは買った人しか分からないように、扇子さんの点線視線がどこを見つめていたのか、その行方を見届けなかった私には分からないように、だけども、その変化前がどのような状態だったのかを意識できていなかった私には、変化後がどれだけ変貌しようと分からないことであるわけで、それは、物心が剥がれていったということと関係していると思われるのだけども、あれ、なんだっけ、なんで私こんなにしゃべっているのかね。おかしくない。おかしくないか。もしもし、もしもーし、聞こえている。今ね、さっきの商店街のコンビニの角を右に曲がって、宅配便センターとかおしゃれな保育園がある道を通り過ぎて、大きな車道に出て、六車線の大きな通りにおいて、立ち止まっている。なぜならば信号は赤だから。少しばかりしゃべりすぎたようであるね。ちょっと黙ってみましょうか。。ちょっと黙ってみる。どうしてちょっと黙ってみる必要があるのかね。少なくとも、私がこうしてものものごにょごにょとしゃべり続けているよりかは、黙るという行為によって無言の共有を感じていた方が幾ばくかマシだろうさね。だけれども、その無言の共有はどことなく強制的ではありはしないかい。なるほどなるほど、しゃべるということは、突き詰めて考えるならば、音を息にのせているという、ただそれだけであるわけさね。そこに唇や舌の動きが乗っかり、様々な音が発せられて、その音が組み合わさり言葉になって、その言葉が組みわさって私はしゃべっているというわけさ。つまり私は、何かをしゃべり続けているというより、音を奏で続けていると言っても過言ではないわけで、いや、過言だ過言だ、そいつは過言だよ、もちろんのことで私は音楽奏者でもなければ、ボイスパーカッショニストでもないのだから。ね、だけれども、私が今こうしてあなたのところに向かうと言った時にさ、こうして電話をする必要なんかなかったわけで、黙って行ったってよかったわけで、だけどもそれでは充分ではなかったようで、そこに私がしゃべり続ける原因と呼ぶべきものがあるはずなのだが、そもそもの始まりは、ふと電話をしてみたくなったということにあるわけじゃない。ここでふと問題が沸き起こってくるわけで、もしかしたらね、、もしかしたらふとにも原因があるんじゃないのかと踏んでいるのだけども、例えばね、例えば。信号が青になったから私は歩き始めたって文章は意味がわかるよね、だけども、おはぎがとても美味しく感じられたから私は歩き始めたってのはどうだい、あら、私は何を言っているのかしら、歩くという例えはこの場合だいぶ適していないように思われるのだけども、そもそも、歩くには目的があるのだから、目的がないにしたって、つまり散歩ということになったってね、散歩するという目的で歩いているのだから、歩くという目的で歩いているのだから、あれ、なんだっけ、なんの話だっけ、おはぎ、おはぎの話してたよね、何でおはぎの話をしていたのでっしゃろ、でっしゃろ。でっしゃろなんて言葉を使っていたでっしゃろか私。そんなキャラだっけか。もしもし、もしもーし、聞こえている?今ね、横断歩道を渡って、突き当たりにコンビニが輝いている道を左に曲がって、何の会社かよく分からぬ会社があって、何の店かよく分からねえお店があって、そのすべては暗いのだけども、線路に沿って通っているこのような道に川など流れていなはりましたか。川。川なんてあったかしら。そこの高架下の絨毯クリーニングのお店は覚えているとして、その前に野球ができるような広場はなかったくないか、あれ、なかったくあったっけ。もしもし、もしもーし、聞こえている?つまるところによると、しゃべるということは、何かを伝えたいからしゃべっているわけでなくて、しゃべる相手との関係をあーだこーだしたいからしゃべっていると言っても過言ではないっすよね、いや、過言だ過言だ、過言じゃないっしょね、究極、しいたけーしいたけー、とあなたに向かって言った時に、私はしいたけのことを伝えたいわけじゃないじゃん、しいたけって言葉で愛を深めることができるかもしれないわけじゃん、もしくは、しいたけーしいたけー、って言った時にさ、逆にさ、愛を断ち切ることだってね、待たれい待たれい、しいたけの話はどうでもよかよ、つまり続けるところ、私が上司に向かって、今日暑いですねーと言う時に、今日は暑いってことを伝えたいわけではなくて、今日は暑いってことを伝えた際に帰ってくる反応を見ているわけで、今日機嫌良さそうだな、とか、そこから紡がれていく関係を求めているわけでっしゃろ、重ねて例をあげよう、例えば居酒屋で誰かと二人っきりになった時に、私たちはしゃべることがなくなることを心のどこかで恐れているのさ、だけどもだけども、少なきにしても私はあなたにしゃべりたいことがあるからしゃべっているわけよね、わけかね、どうだい、本当にそうかね、オウマイゴット、ビックバン、世紀の大発見ではないかね、ないかね、つまり果てるところ、私はあなたにしゃべりたいことがないからしゃべっている、そういう事態が起こってはるわけですな、待ってくんなせい、待ってくんなせい、どういうこったい、うーむ、こんなところに地下へと続く階段なんてなかったぞ。ここにたこ焼き屋の屋台なんてなかったし、ここに長い下り坂なんてありませんでしたわよ。もしもし、もしもーし、聞こえている?ここはどこだい、あなたと過ごしたあの部屋はどこかしら。だって、おかしいじゃない、六車線の横断歩道を渡って、突き当たりにコンビニが輝いてるところを左に曲がって、線路沿いの道を進んで、坂道を登ると十字路にぶち当たるはずじゃない。あの十字路はどこかね、住んでるのか住んでいないのかわからない汚い木造家屋なんてなかったし、古い化粧品屋のショウウインドウなんてなかったし、バスケットゴール付きの青い家などなかったわけだ。そう考えるなれば、昨日の全力大雨ダッシュの未実行も扇子さんの点線視線も駅のホームの水飲み場も濡れ靴下現象における不快感もなかったわけでございまする。ございまする、そんな言葉を使っているのが私でござって、私はただただあなたのところに向かっているだけなのだけれども、ふと立ち止まってみて思うことにゃ、それはやっぱりあったという気がしてならなく、そこにふとの真理が潜んでいて、ふと、というのは、立ち止まってみるという言葉が省略されているわけじゃよ、ふと、にはそれまでの時間を区切る作用があって、ふと。ふっと。ふっ、と。この、ふっ、の時間は、それまで私どもが過ごしていた時間から、ふっ、と、解き放たれるようであり、制限されるようであり、ふと、立ち止まってみると、こういうことを考えていて、ああいうことをしてみていて、と気付くわけでいてさ、ね、ふと、電話をしてみて、ふと、歩き始めていて、ふと、道に迷っている。もしもし、もしもーし、だけども、私たちには、その変化前のことはどうしてもおぼろげにならざるを得ないのであるからして、その変化後ということについてとやかく言うことは不可能なのかもしれないわね、そもそも物心が剥がれていくという事態と直面していた結果によりけり、私にはもちろんのことで、あなたが離れて行った時のことを思い出すことができないようであって、それは受け入れるということに密接に関わっていて、物心が剥がれた状態の私にはその事態を受け入れることはあまりにも安易なもののようにとらわれるわけでっしゃろ、容易な受け入れ態勢を取っている自治体に向かって、容易じゃなくせよなんて言えないわけで、つまり入場券は買うことはできないわけでいて、それはさよなら電車の場面に立ち会えない私のことであり、電車のドアと液晶部分の突出部分のことであり、食べることができなかった炙りトロサーモンのことであり、とにもかくにも、カタカタカタカタと曲がっていっていく私の背骨が全ての原因でござって、否が応でも私は私のその背骨と向き合わねばならぬと考えているのだけども、背骨と向き合うというのは土台無理な話であって、つまり向き合うという時に、どこを起点として向き合うのかと言えばそれはもっぱら顔であってね、その顔の裏側に背骨が繋がっているわけであるからして、背骨を向こうとすればするほど尻尾を追いかける犬の如く、くるくるくるくると回ってしまうわけじゃない、挙げ句の果てにうー、ワン、ワン、と奇声を発する病に至るかもしれぬでござる、そこで尻尾に噛み付いた蛇ならば神話性があって、神々しくも思えそうなものにゃんだけど、尻尾を追いかける犬にしかなれない私の滑稽さはあまりにも悲劇的と言えよう。しかしその悲劇を回避する手段は思いついちゃってるんでありんすよ、どんづまるところによると、私の身体の表側を裏側にひっくり返すと行った荒技でありましょうか、そうすることによってしか私は背骨と向き合えないのであり、そうすることによって私の内側は外に開かれざるを得ないのでっしゃって、私の内側=世界となるわけでござって、つまり接着面の話であるのだけども、私の内側=世界となった私に見えているのは、紐で囲まれたガソリンスタンドであり、どこまでも続いていく街灯であり、観覧車が輝いていて、ひまわりが漂っていて、民家に付随した駄菓子屋があって、柳の木が並んでいて、蠢いている川があったかもしれなくて、=私の内側となっていくわけであるわけなのだけれどもそこに至っても尚、尚の事、尚の事とはどういうことだろう、果たして世の中に尚の事以外のことなんてあるのだろうか、あるに決まっていたとしても今の私には、尚の事としか言えないわけでいて、ね、そもそものところで、

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、、、

 

  ポケットからスマホを取り出す。

  電話に出る。

 

  誰かがしゃべっている声がする。

 

  そっと耳からスマホを離す。

 

もしもし、もしもーし、聞こえている。私。聞こえていますよー。たどり着けないということかしら、何もかもが遠いようであるね。もしもし、もしもーし、だけどもだけどもね、いや、いいや、もう切るね、じゃね、ばいばーい。

 

  明かりが消える。

   

スマホの光だけが灯っている。

ゆらゆらと漂って、消える。

 

終わり。

三月公演、報告会を行います

 

下記の公演にて、報告会という名のアフタートーク的なものを15分ほど行います。

日時
2019年3月9日 19時 稲垣、宮尾、森による報告会
10日 13時30分 稲垣、宮尾、伊原による報告会

         18時公演は時間の都合のため報告会はありません。

 

よろしくお願いします。。

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稲垣和俊戯曲集No2公演
「さよならおつかれアワーサワー」


場所
小金井アートスポットシャトー2f
〒184-0004 東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井 2F
JR中央線武蔵小金井駅南口から徒歩5分

 

日時
2019年3月9日 19時             稲垣、宮尾、森による報告会
              10日 13時30分      稲垣、宮尾、伊原による報告会

               18時公演は時間の都合のため報告会はありません。

 

料金
2500円

予約
romantist721@gmail.com にお名前、日時、枚数をメールして下さい。


活動コンセプト
「稲垣和俊戯曲集」は稲垣和俊の戯曲集を完成させるためのプロジェクトです。戯曲を中心に、集まった人それぞれが各々に戯曲を遊ぶ不定期公演を催しています。そこで得られた新たな発見や感触、戯曲を読んだ読者の意見や感想をもとにして、永続的に変化し続ける戯曲集です。戯曲は「稲垣和俊戯曲集」のWEBページにて公開中。http://gikyokusyu.hatenablog.com

作品概要
女が包丁で刺されてから倒れるまでの一瞬をずっと喋り続ける「さよならアワーアワー」と包丁で刺した男が自分を刺すまでずっと喋り続ける「おつかれサワーサワー」の二つの戯曲を合わせた戯曲を上演します。
演技をするようにドバーッと書きましたら、チンケな言葉がたくさん生まれましたので、そんな膨大なチンケな言葉にまみれ、さよならと、おつかれと、言いたい、いや、別に言わなくてもいいんですが、できれば愛を込めて、集まった人それぞれのさよならと、おつかれを。

 

 

 

2019年3月公演します。よろしく願います。

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稲垣和俊戯曲集No2公演
「さよならおつかれアワーサワー」

参加メンバー

稲垣和俊(原作)

森衣里(出演)
宮尾昌宏(出演)

板倉勇人
伊原雨草
渋革まろん

4DK(宣伝美術)

 


場所
小金井アートスポットシャトー2f
〒184-0004 東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井 2F
JR中央線武蔵小金井駅南口から徒歩5分


日時
2019年3月9日 19時
10日 13時30分/18時

料金
2500円

予約
romantist721@gmail.com にお名前、日時、枚数をメールして下さい。


活動コンセプト
「稲垣和俊戯曲集」は稲垣和俊の戯曲集を完成させるためのプロジェクトです。戯曲を中心に、集まった人それぞれが各々に戯曲を遊ぶ不定期公演を催しています。そこで得られた新たな発見や感触、戯曲を読んだ読者の意見や感想をもとにして、永続的に変化し続ける戯曲集です。戯曲は「稲垣和俊戯曲集」のWEBページにて公開中。http://gikyokusyu.hatenablog.com

作品概要
女が包丁で刺されてから倒れるまでの一瞬をずっと喋り続ける「さよならアワーアワー」と包丁で刺した男が自分を刺すまでずっと喋り続ける「おつかれサワーサワー」の二つの戯曲を合わせた戯曲を上演します。
演技をするようにドバーッと書きましたら、チンケな言葉がたくさん生まれましたので、そんな膨大なチンケな言葉にまみれ、さよならと、おつかれと、言いたい、いや、別に言わなくてもいいんですが、できれば愛を込めて、集まった人それぞれのさよならと、おつかれを。

 

 

 

パーティさながら愛と孤独 動画

去年上演した「パーティさながら愛と孤独」の動画です。

一年経ったので、惜しげもなく公開します。

 

ダブルキャストの公演でしたが、動画はAバージョンの公演です。

 

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愛じゃなくとも逃避行

「愛じゃなくとも逃避行」

  

  雨、帰るのは面倒くさい、
  傘、さしても濡れる雨、

1、タクシー乗り場、屋根の下。

  夜、
  
  男、女、待っている。

  女の手、スマートホンへ。
  男、雨に触れる。
  男の手、濡れる。

  男、女を見る。

 

女  なんですか。
男  濡れてしまいました。
女  ・・・。
男  雨降ってる中に手を出すと、濡れるんですね、当たり前ですが。
女  当たり前ですよね。
男  すごい雨ですね。
女  そうですね。

 

  間。

 

男  逃げ出してみませんか。
女  えっ、
男  逃げ出してみませんか。
女  えっ、あっ、何から。
男  何からでしょう。

 

  男、ゆっくりと辺りを見回す。

 

男  都会のネオンから。

 

  間。

 

女  新手のナンパですか。
男  ナンパ、なななナンパ、これは、なななななナンパと言うのでしょうか。
女  どこへ逃げるんですか、ラブホですか。
男  ラブホ、ららららラブホ、ななななナンパ、いや、違うんです、勘違いしないでください、ナンパじゃないです、ラブホとかじゃないです、いや、ほんと、あれ、そういうんじゃないです、あら、でも、とりようによってはナンパなのかもしれない、逃げ出したくなったんです、今、ふと、そしたら隣にあなたがいた、ただそれだけなんです、ラブホ、いや、あなたがラブホにどうしても逃げたいというのならラブホでもいいんですが、いやおかしいおかしい、何を言っているんだ、頭おかしいですね、忘れてください、忘れてください、三分前に戻りましょう、三分前の何も会話などする気配のなかった二人に戻りましょう。

 

  間。

 

女  戻れませんよ。
男  戻れませんよね、タイムマシンなんてないんだ、ああ、なんて言うのかな、一言二言交わしてしまうと、あれですね、元の二人には戻れないんですね、私たち。無言が、つらい。
女  声をかけられるとは思いませんでした、今までの人生で見ず知らずの人に声をかけられたのなんておじいさんとかおばちゃんとか、あっ、声かけてくるな、って雰囲気プンプン出しながらですよ、だから、不意をつかれました、いやはや、不意を突かれると人間、どうなるか分かったもんじゃないですね、雨すごいから、ああ、帰るの辛いなって、雨だるいな面倒くさいなって、四分前は毎分毎分思ってたんですね、でも今は、なんて言うか、この雨の中を全力疾走で走り始めたい衝動に駆られています、なんで都会のネオンから逃げたいんですか。
男  えっ、あっ、全力で走り始めないでね、なんか、なんか、僕のせいかと夜寝れなくなるから。
女  走りませんよ、濡れたくないし、明日も仕事だし、風邪引きたくないし、スマホ防水じゃないし、なんで都会のネオンから逃げたいんですか。
男  えっ、あっ、なんでだろ、なんで都会のネオンなんだろうねえ、なんとなく、なんとなくの流れでっていう感じはあるかもしれないけど。
女  都会のネオンがなんか悪さしたんですか。
男  いやあ、そんなことないですよ、都会のネオンは悪さなんかしないですよ。
女  嫌いなんですか。
男  嫌いってわけでもないですけどね、むしろ綺麗だなって思うことのほうが多いですけどね。
女  えっ、田舎のネオンだったら大丈夫なんですか。
男  えっ、田舎のネオン。
女  都会のネオンからは逃げたいけど、田舎のネオンなら大丈夫なんですか。
男  えっ、どうだろ、大丈夫そうな気もするけど。
女  都会ってどこまでが都会なんですか。
男  もう、あれ、もう、すみません、都会のネオンからは逃げたくないです、むしろ立ち向かいたいぐらいです、すみません、適当に言ってしまっただけです。
女  じゃあ、何から逃げたいんですか。
男  ええと、なんでしょう。何事からも、ですかね、
女  ああー、分かります、分かります、逃げ出したいけど、何から逃げ出せばいいのか分からない感覚、分かります、分かります。でもね、おじさん、考えてみてください、逃げるってことは逃げるってことですよ、尻尾を巻いて逃げるってことですよ、敵に背中を見せながら逃げるってことですよ、敵って誰だよ、逃げられますか、そんな覚悟ありますか、何事からもってほんとに何事からもってことですよ、親兄弟友達嫁子供仕事趣味その他諸々自分を取り巻く何事からも逃げるってことですよ、そんな覚悟ありますか。
男  覚悟って言われても、今急に思っちゃったことだからなあ、今、覚悟って言われても、なあ。
女  ダメだなあ、おじさん、ダメだなあ、ダメだなあ、ダメですよ、逃げちゃダメですよ、えっ、逃げちゃダメですよね、普通、大の大人が、何逃げるなんて言ってるんですか、逃げちゃダメなんですよ、前を向いて上を向いて、振り返っちゃダメなんですよ、家族はいますか。
男  ええ、ええ、嫁に子供が二人、まだ小さいですが、
女  ダメですよね、逃げちゃ、何弱気になってるんですか、これからでしょ、立ち向かっていかなきゃならないことたくさんあるでしょ、知らんけど、そんなもんでしょ、人生、家族仕事捨てて逃げるなんて、嫁子供の顔、頭に浮かべて言えますか。
男  言えません。
女  そうでしょ、だからね、おじさん、逃げちゃダメですよ、簡単に逃げるなんて言っちゃダメ。
男  ありがとう、逃げちゃ、ダメだよね、やっぱり、そうだよね。
女  ほら、タクシーが来ましたよ、家族の元へ、いつもどおりの顔で、いつもどおり帰ってやんな。
男  ありがとう、それでは。

  

  タクシー、来る。

  男、乗ろうとする。
  女、それを阻止する。

 

男  えっ。
女  具体的には。
男  えっ。
女  逃げるって具体的には何しようとしてたんですか。
男  えっ、あっ、具体的に。
女  そう、具体的に。
タクシー運転手  えっ、ちょっとちょっとお客さん、乗らないの?
男  乗ります、
女  乗りません。
タクシー運転手  えっ、乗らないの。
女  乗りません、っていうか、ちょっと待っててもらえますか。
タクシー運転手  えっ、ちょっと待ってなきゃいけないの。
男  あれ、えっ、何言ってるの。
女  逃がしませんよ、もはや、私から。
男  えっ、何言ってるの。
女  答えてください、逃げるって具体的には何しようとしてたんですか。
男  あれ、さっき、逃げちゃダメだって、家族の元へ帰んなって話だったよね、
女  分かってます分かってます、言いました言いました、逃げちゃダメだって言いました言いました、でも逃げちゃダメだって分かりつつも逃げたくなるのが人間じゃないですか、
タクシー運転手  話長くなりそうだけど、私も待ってなきゃいけないの。
女  っていうか、はい、ほら、今、ほら、だってさっき、私に、逃げてみませんか都会のネオンからって言ったのに、ほら、今、一人でタクシー乗るってことはほら、なんか、そうでしょ、言い逃げっていうか、ね、私から逃げてることになりますよね、ね。
タクシー運転手  いや、私は知らないけども。
男  いや、具体的にと言われましても、そんな考えて発したわけじゃないので、
女  だって言ったんだから、言ったんだから、逃げ出してみませんかって、言ったんだから、どこ行こうかぐらい考えたでしょ。
男  そりゃあ、一瞬は。
女  どこですか。
男  逃避行と言えば、北です。

 

  女、タクシーに乗る。

 

女  運転手さん、北にお願いします。
タクシー運転手  北?
女  北にお願いします。
タクシー運転手  ざっくり、北?
女  ざっくり、北にお願いします。
男  ちょっと待ってくださいよ、さっき決心したとこなんだから家族の元へいつもどおり帰るって、あなたに逃げ出してみませんかっていったのは一時の気の迷いでした、本当にすみません、落ち着きましょう、馬鹿げてるよ。
女  馬鹿げてますか。
男  馬鹿げてますよ。
タクシー運転手  ざっくり、北?
女  ああ、あああ、ああああ。
男  えっ、あっ、あれ。
タクシー運転手  泣かせてしまいましたね。
男  えっ、あっ、ごめん、ごめんよ、泣かないで。
女  ああ、あああ、逃げ出したい、何事からも、
タクシー運転手  よっぽど辛い日々を過ごしているんだろうねえ。
男  えっ、何、どうしたの、何かあったの、そんなに辛い毎日なの。
女  いえいえ、全然、むしろ、職場の人たち優しいし、友達にも恵まれてるし、彼氏もすんごい好きだし愛してくれるし、なんか、むしろ、全然なんだけど、逃げ出したい、何事からも。ああ、あああ。

 

  間。

 

男  分かっちゃうんだなあ、これが。
タクシー運転手  えっ、分かっちゃうの。

 

  男、タクシーに乗る。

 

男  運転手さん、ざっくり、北へ。
  
  タクシー走り出し、暗転。

 

 

2、ホテル。

 

  男、テレビのリモコンをいじっている。
  女はこのシーン中、寝る前にするルーティンをこなす。

  男、誤ってペイチャンネルのお試し版映像を流してしまう。
  女、全ての行動をやめ、テレビを見る。
  男、すぐさま、チャンネルを変える。

  

  間。

  

  男、何事もなかったかのように振舞う。

 

女  見てもいいですよ。
男  えっ。
女  ペイチャンネル
男  見ませんよ。
女  見ないんだ。
男  さっきは間違って押したんです、あれ、このボタンなんだろって、したら、あれが流れたんです、それだけです、決して見たかったわけではありません。
女  見たくないんだ。
男  見たくありません。

 

  雨の音。

 

男  あのう、佐々倉さん。
女(以下、佐々倉)  なんですか。
男  やっぱり、部屋は別々でとったほうがよかったんじゃないかなと。
佐々倉  えっ、なんでですか、別々のほうがいいんですか、ペイチャンネル見たかったですか。
男  違いますよ、だってあなた、もし私がやばかったら、あなた、やばいっすよ、襲われてますよ、やばくなくて感謝して欲しいぐらいですよ、えっ、怖くないんですか、私、さっき会ったばっかなのに。
佐々倉  怖くないですよ、だって逃げてるんですよ、私たち、一緒に逃げてるんですよ、なのに別々の部屋とか意味ないじゃないですか、ただの一人旅じゃないですか。
男  そうだとしてもさあ、自分の体もっと大事にしないと。
佐々倉  棚橋さんて風俗嬢にもそんなこと言いそうですよね。
男(以下、棚橋)  えっ、なにそれ。
佐々倉  私はどう見えますか。
棚橋  えっ、なんですか。
佐々倉  私のこと、どんなふうに見えますか。
棚橋  えっ、あっ、かわいい、ですよ。
佐々倉  あ、ありがとうございました。あっ、いや、そういうことじゃなくて、
棚橋  あっ、ごめん、そういうことじゃなくて。
佐々倉  あっ、えっ、かわいいですか。
棚橋  あっ、いや、変な意味じゃなく、かわいいですよ。
佐々倉  変な意味でかわいいってなんですか。
棚橋  えっ、あっ、なんだろうね、変な意味でかわいいってなんだろうね。

 

  雨の音。

 

佐々倉  変ですね。

棚橋  あっ、えっ、変ですか。
佐々倉  私、変わらない、いつもと同じことしてる、私、風呂上がって、化粧水を二回つけて、保湿して、乳液なんかもつけて、明日は仕事に行かないて決めたのに、私、肌を気にしてる、毎日の夜のお手入れから抜け出せない私がいる、変わらないじゃないですか、部屋別々なんて、意味ないじゃないですか、逃げ出したんでしょ、私たち、それなのに、私、変ですね。
棚橋  ああ、はい、ええ、まあ、そうですね。
佐々倉  雨、止まないですね、
棚橋  ああ、ええ、まあ、雨がこうさせたと言っても過言ではないですね。

 

  雨の音。

 

佐々倉  触りたいですか。
棚橋  えっ。
佐々倉  触りたいですか。
棚橋  えっ、何に?
佐々倉  私に。
棚橋  あっ、あなたに。
佐々倉  そう、私に。
棚橋  ・・・触りたくないですよ。
佐々倉  そうですか。

 

  雨の音。

 

棚橋  勘違いしないでください、決して触りたくないわけじゃないですよ、決して、あなたに興味がないとかそういうわけではありません、むしろ触りたいぐらいですよ、でも触らないんです、そう触らないんです。だってダメでしょう、触っちゃダメでしょう、だって、だって、ねえ、そんな、なんて言うの、ダメだよ、あなたとは今日、会ったばっかだし、私には妻も子供もいるんだし、
佐々倉  妻と子供からは逃げましたよね、
棚橋  妻と子供からは逃げました、妻と子供からは逃げました、だがしかし、だがしかし、ねえ、そんな即座に、ねえ、逃げた瞬間ねえ、ダメでしょう、触っちゃダメでしょう、あなたは、すごくいい匂いですね、うん、なんかもう、風呂上がりのいい匂いだし、風呂上がったあとの女子の雰囲気というかなんと言うか見ちゃいけないものを見せつけられているようで、なんと言うかだけども、ああ、触りたくない、決して触りたくないわけではないんだけども、えっ、触っていいんですか。
佐々倉  触っていいですよ。
棚橋  えっ、触っていいんですか、というか触って欲しいんですか。
佐々倉  触って欲しくないけども触っていいですよ。
棚橋  えっ、それって触っていいんですか。
佐々倉  触っていいですよ、触って欲しくないけど。
棚橋  えっ、それって、僕がここでお金あげてたらエンコーってやつだよね。
佐々倉  エンコーじゃないですよ、お金もらってないんで。
棚橋  ああ、そうか、エンコーじゃないか、お金出してないから、えっ、触るよ。
佐々倉  はあ。
棚橋  えっ、ほら、もう、右手伸びてるよ。

 

  棚橋の右手、伸びてる。

 

佐々倉  そうですね。右手伸びてますね。

棚橋  えっ、ほら、もう、なんか、ほら、どこ触ろうか迷ってるよ、まずはどこに行くべきか迷ってるよ。

 

  棚橋の右手、宙を彷徨っている。

 

佐々倉  頭、背中、腰、脚、おっぱい、お腹、腕、さあて、この右手はどこを触るんでしょうか、触って欲しくないけど。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋の右手、棚橋のズボンのポケットからスマートホンを取り出す。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋の目、スマートホンの画面を見る。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋の左手、スマートホンの画面に触ろうとする。

 

佐々倉  誰ですか。

 

  棚橋の左手、止まる

 

棚橋  えっ、あっ、いやあ。

 

  タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  奥さんですか。

 

  タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  逃げたんですよね。
棚橋  逃げたんでした。

 

  別の場所から、全く同じ音、タンタラタラララタラララ、

  二つのタンタラタラララタラララ、  

  佐々倉の右手、スマートホンへ。

  

  タンタラタラララタラララ、
  タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  誰からですか。
佐々倉  彼氏からです、今夜会う約束してたんです。

 

  タンタラタラララタラララ、
  タンタラタラララタラララ、

 

  二人、音の鳴るスマートホンを片手に持っている。
  
  タンタラタラララタラララ、
  タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋、もう片方の手で佐々倉に触れる、
  スマートホンが落ち、暗転、音が消える。

 

 3、秘境駅
  
  ベンチが一つ。
  その奥におじさんが寝ている。

  

  棚橋、佐々倉、現れる。

 

佐々倉  いい空気ですね。
棚橋  すごいね、いい空気だね。
佐々倉  誰もいませんね。
棚橋  誰もいないね。
佐々倉  さすが無人駅といったところですかね。
棚橋  すごいね、さすが無人駅だよね。
佐々倉  もう何しても怒られないって感じですね。
棚橋  えっ、何しても。
佐々倉  駅なのに。
棚橋  ねえ、駅なのに、ねえ、駅なのに、誰もいない、駅なのに、自然を感じる、駅なのに、電車が通るのに、無人駅、
佐々倉  どうしてだろう、なんで無人駅って来たくなるんですかね、
棚橋  えっ、なんでだろうね、無人駅だから、っていうより、誰もいないから、いや、うん、誰もいないからじゃない。
佐々倉  誰もいない場所ならたくさんあるでしょうに、それこそ、とことん山とか、とことん海とか、トイレとか、そもそも自分の部屋とか、
棚橋  分かった分かった、すごいことを思いつきました、こういうのはどうでしょう、誰かいそうなのに誰もいないからじゃあないでしょうか。
佐々倉  誰かいそうなのに誰もいない。
棚橋  誰かいそうじゃない、だって、いてもおかしくないじゃない、でも誰もいないからさ。
佐々倉  そういう場所に来たかったというわけですか。
棚橋  いや、まあ、うん、そうなんじゃない。あっ、見て見て、熊出没注意だって。
佐々倉  熊。
棚橋  怖いよー熊、怖いよー、熊出るんだよ、ここ、
佐々倉  死んだフリの練習でもしてみますか。
棚橋  えっ、ここで。えっ、必要。
佐々倉  なにしても怒られませんよ、ここなら。
棚橋  ああ、まあそうだけど。

 

  佐々倉、倒れる。

 

棚橋  あっ、ちょっと、もう、汚れちゃうよ、立って立って、何してもいいからって、もう、やめなよ、もう、
佐々倉  ちょっと黙って、見てください、死んでますか、私。
棚橋  死んでますかって死んでるわけないでしょうに、
佐々倉  違いますよ、棚橋さん目線で見られても困るんです、熊目線で見てもらわないと。
棚橋  熊目線て何よ、僕は熊じゃないんだから、熊目線にはなれないよ、
佐々倉  そんなことは分かってますよ、できる限り、できる限りの話ですよ。

 

  棚橋、できる限りの熊目線で、佐々倉を見る。

 

棚橋  生きてるね、だって、ほら、呼吸してるじゃない、胸動いてるじゃない。
佐々倉  えっ、違います違います、全然違います、全然熊目線じゃなくないですか、っていうか熊じゃなくないですか、えっ、だって、熊にならないと、熊目線になるには熊にならないと、
棚橋  熊になるってなんなのよ、
佐々倉  だって、ほら、熊が二足で立ってますか、いやそりゃたまには二足で立つこともあるでしょうけども、基本四足でしょう、えっ、間違ってますか、基本四足歩行でいいですよね熊って、したら、ねえ、違うでしょう。
棚橋  こうでしょうか。

 

  棚橋、四足歩行になる。

 

佐々倉  そうですよ、熊って言ったらそうですよ、しかしですよ、熊は喋りません、
棚橋  なるほど、あっ、えっ、熊ってどんな鳴き声ですっけ。
佐々倉  えっ、分かんない、熊の鳴き声分かんない。
棚橋  グワオーとかそんな感じ、
佐々倉  まあ、いいでしょう、グワオーで。
棚橋  グワオー、グワオー。
佐々倉  いいですね、熊っぽくなってきましたね。
棚橋  グワオー、あっ、じゃあ、この目線で見ますね。
佐々倉  どうせならこうしてみましょう、ちょっと遠くに行ってもらって、そこから。見つけるところから。
棚橋  見つけるところはいいでしょう。
佐々倉  熊は喋らない。
棚橋  グワオー。

 

  棚橋、四足歩行ではける。

  佐々倉、一人、倒れている。

 

  棚橋、熊となり現れる。

 

棚橋  グワオー、グワオー。グワッ。

 

  棚橋、佐々倉を見つける。

 

棚橋  グワオー、グワオー。

 

  棚橋、佐々倉の周りをまわる。

 

棚橋  グワオー、グワっ。

 

  ベンチの裏へ行った棚橋の動きが止まる。

 

棚橋  あっ、えっ、ちょっと、
佐々倉  しゃべらない。
棚橋  あっ、違う違う、えっ、死んでる、死体、死体。
佐々倉  えっ、死体。

 

  佐々倉、ベンチの裏へ。

 

佐々倉  あっ、本当に、死体。これ、死体ですか。すみませーん、大丈夫ですかー。
棚橋  ああ、ちょっと、むやみに触らないほうがいいんじゃないの。
佐々倉  えっ、なんでですか。
棚橋  だって、なんか、ほら、殺人事件とかだったら、ほら、なんか、
佐々倉  息してますよ。
棚橋  息してますか。
佐々倉  すみませーん、大丈夫ですかー、すみませーん。

 

  おじさん、起き上がる。

 

棚橋  わっ。
おじさん  あれ、あっ、今、何時。
棚橋  あっ、今。
佐々倉  何時でしょう、昼前なのは確かですけど、私たちスマホを捨てたので、正確な時間は。時計持ってますか、
棚橋  えっ、時計。あるかな。
おじさん  スマホを捨てた。すごいね、あっ、寝てた。
佐々倉  ええ、多分。
棚橋  あっ、時計あるでしょう、駅だし、時計ぐらい。
おじさん  いや、まあ、ありがとう、俺、あれだわ、スマホ、あるわ、俺の、あっ、充電切れてるわ。

 

  おじさん、時刻表を見に行く。

 

おじさん  あれ、今何時だっけ。
佐々倉  だから私たちは。
おじさん  ああ、そうだった、スマホ捨てたんだった、
棚橋  時計ぐらいありそうですけどねえ。
おじさん  スマホ捨てるってすごいね、スマホ捨てるって、何があったの。
佐々倉  逃げてるんです、私たち。
おじさん  えっ、何どうしたの、殺人でも犯したの。
棚橋  そんなことはしていません。
佐々倉  殺人を犯しました。

 

  間。

 

棚橋  えっ、何、えっ。
佐々倉  三角関係だったわけです、この人と私と、この人の妻と、三角関係のもつれってやつですよ、そして、この人の奥さんを殺しました。あー、この人の奥さんは毎日この人と会っているのに、私は金曜日か土曜日の夜にしか、しかも、月一回ぐらいしか会えない、不公平だと思ったわけです、この人を独り占めにしたかった、だからこの手で殺したんです、うーん、こう、首を絞めたわけです、そして、そうだなあ、この人の家の庭に埋めました、この人には二人の小さな子供がいるということで、その子供も殺しました、通報されると厄介なので、そして親切に母親と同じ庭に埋めてやったというわけです。そして私たちは逃げ始めたというわけです。

 

  間。

 

棚橋  なんでそんな嘘つくの。
佐々倉  何かが物足りないと思っていたんですよ、逃げ始めたのはいいけどもどうも追われている感覚が無い、スマホも捨てたし、あなたは捜索願ぐらい出されているかもしれませんが、私は一人暮らしだし、今はまだ彼氏との約束を一晩ほっぽらかして、一日仕事を無断欠勤しているだけなので、多分捜索願なんて出されていないでしょう、だから、そうですね、ATMでお金を下ろすとなると足跡が付いてしまうんじゃないかと思いまして、とりあえず、しがない地方都市の民家の庭に落ちてあった鎌を拾って、となりに吊るしてあった汚いタオルで顔を隠して、銀行強盗でもしてやろうかと思ったんですが、流石に最初からそこまでは行ける気がしなくて、えーと、とりあえず、牛丼屋強盗をして、二十万円を手に入れたというわけです、はい、そんな、逃避行です。
棚橋  何を言ってるの。
佐々倉  昔、っていうか中学生か高校生ぐらいの時、観た映画を思い出していて、全然内容は覚えてないんですが、なんか銀行強盗とかして二人で逃げるんですよね、その映画を思い出していて、一シーンだけ強烈に覚えているのが最後なんか誰かの知り合いかなんかに裏切られて、なんかめちゃくちゃ銃で撃たれるわけですよ、めちゃくちゃ、もうこっぴどく、撃たれすぎてこう、なんか、跳ねてるんですよね、死体が、跳ねてるんですよね、そのシーンを思い出してて、逃避行の最後っていうのは悲惨っていうイメージがありまして、いやはや、しかし、この逃避行に悲惨な物陰はないぞと、せいぜい職場辞めさせられるとか、悲惨ですけど、超絶悲惨ですけど、誰かに怒られるとか、まあその程度だなあと。
おじさん  この駅から出るでしょう、あの階段を登って、したら、山道に出るのね、その山道を右側に進むわけだ、すると大きな広場に出るのね、広場って言っても、周りバンバン木生えてて、ちょっと広大ななんもない土地があるわけなんだけど、まあ、ヘリポートらしいのね、ヘリが来るのね、なんか、真冬だと雪とか積もるからさ、来れなくなるからヘリで来るらしいのね、なんで来るのかはなんかあんだって、ヘリ使っても来て作業しなきゃならないものが、あるわけよ、その広場にさ、一度だけ、死体が転がっていたのよ、死体が、その死体がおかしいのね、背中にリュック背負って倒れてたっていうのは分かるんだけども、片手に座布団を持っていたというの、これがおかしい、真相は分かっていないんだけども、首を絞められた跡とか刺された跡とかは一切なくて、まあ、行き倒れだとか、ホームレスが最後の場所にここを選んだとか言われているんだけども、なんだ座布団って、リュックを背負っているのは分かるんだけども、座布団ってなんで持ってるのと。
棚橋  リュックの中には何が入ってたんですかね。
おじさん  それは知らないよ、俺、見てないんだもん、そこまでは知らんよ、
棚橋  ああ、すみません。
おじさん  問題は座布団さ、まずこの座布団で出来うる全てのことを考えてみたんだ、まず、座る、これが一番スマートな考え方よ、でも座る必要あるかと、あの山の中のぽつんとした広場で座る必要あるかと、いや、座る必要はあるかもしれない、けど、汚れちゃうよと座布団が、下、土だよと、座布団土まみれになってしまうよと、そして二つ目がこう、折ってさ、二つ折りにしてさ、枕にする、これも同じよ、枕にして寝る必要あるかねと、あんな場所で、あっても汚れちゃうよ座布団が、と。
棚橋  終電逃したのかもしれませんよ。
おじさん  終電逃したから、ああ、ここで寝なきゃとなったその言い分も分かる、分かるんだけど、そもそも何故座布団を持っていたのかねと、そういうことになるよね。
棚橋  確かに。
おじさん  俺の推測はこうだ、俺の推測はだな、これは殺人事件さ。
棚橋  殺人事件。
おじさん  そう、殺人事件なのよ。つまり、その座布団を持った死体というのは落語家さ。その落語家になんらかの恨みを持った人物が、その落語家を殺した。しかし、落語家は死んでもなお座布団を離さなかった、落語家だから、落語家の執念というやつさ、そして、その落語家を殺した奴が、行き倒れて死んだかのように見せかけてここに連れてきた、しかし座布団は離さなかった、落語家の執念というやつさ、これが私の推測です。
棚橋  落語家、それはとても安易な思いつきですね、
おじさん  落語家以外はありえない、落語家以外何がありうると言うんだ。
棚橋  例えば、こういうのはどうです、座布団の開発者。
おじさん  座布団の開発者。
棚橋  座布団の開発者が最高の座布団、もう、すっごい、ふっかふかで、なんかもう、ずっと触っていたくなるような最高な座布団を開発して、もう、すごいぞと、なんか、座布団史上類を見ないすんごい座布団が出来上がったぞと、しかも安いぞと、安い材料費で作れるから、安い値段で売れるぞとなって、その情報を嗅ぎつけたライバル会社がヤバイぞと、こんな座布団売られたらたまったもんじゃないぞということで、その座布団を開発したやつを暗殺した、そこでこの誰も来やしないような場所に行き倒れのように見せかけた、そういうのはどうでしょう。
おじさん  なるほど、落語家が座布団開発者になっただけってことね。
佐々倉  もっとシンプルに考えてみてはどうでしょうか。
おじさん  シンプルとは。
佐々倉  なんか分かんないけど大事な座布団をお母さんかおばあちゃんかなんかにプレゼントで買って、そして歩いていたら、熊に出会った。
おじさん  熊に。
佐々倉  ほら、看板出てるじゃないですか、熊出没注意って、だから死んだふりをした、そしたら、
おじさん  死んだ。
棚橋  実にシンプル。
おじさん  しかし一つだけはっきりしたこと、どんな死に方であったとしてもだ、座布団は大切だったってことさ。
棚橋  確かに。
佐々倉  おじさんはなんでそこで倒れていたんですか。
おじさん  おじさんはどうしてそこで倒れていたか、これまた実にシンプル。おじさんは酔っ払っていた、すこぶる酔っ払っていた、どこにでもある話だね、毎日の仕事、毎日の家族との付き合いの中、別の時間を探す際、おじさんは酔っ払うしかできなかった。酔っ払うしか術を知らなかった、酔っ払いながらこの駅に来ていた、酔っ払いながらふと寝転んでいた、寝転びながらも考えていた、おじさんにとっての座布団とはなんだろうと、おじさんは死ぬのかもしれないと思った、おじさんの右手にはウイスキーの小瓶が握られているだけだった、ただそれだけのことなのでした。

 

  佐々倉、倒れる。

 

棚橋  えっ、ちょっと大丈夫。
佐々倉  大丈夫です、死んだふりをしているだけなのです、重要なことに気付いたのです、死んだふりをして生きてきたのかもしれないと思ったわけです、生きるために死んだふりをしてきたというわけです、あー、生きるために死んだふりをするというのは、あー、なんだか、なんだかって感じですね、あー、

 

  おじさん、倒れる。

 

棚橋  もう、おじさんまで。
おじさん  なるほど、死んだふりをしてきたというわけか、死んだふりをしながら死んでいこうとしているというわけか、しかし男なら、いや男ならという考えは良くないのかもしれない、人間ならば、いや、生物ならば、一度くらい死んだふりをせずに熊と戦ってみたいものよのお。
佐々倉  あっ、熊だ。
棚橋  えっ、どこ。

 

  佐々倉、指差した先には棚橋。

 

棚橋  えっ、俺。
佐々倉  あっ、熊だ。
棚橋  えっ、また。
佐々倉  あっ、熊だ。
おじさん  うわあ、熊だ。

 

  棚橋、四足歩行になり、

 

棚橋  グワオー、グワオー。

 

  棚橋、うろうろする。

 

棚橋  グワオー、グワオー。

 

  おじさん、立ち上がる。

 

棚橋  グワッ、グワオ。

 

  おじさんと熊、見つめ合う。

 

おじさん  さあ、さあ来い。
熊  グワオー。

 

  おじさんと熊、取っ組み合う。

 

佐々倉  おじさん、がんばって、おじさん、がんばって。
おじさん  うおおお。
熊  グワオー。

 

  おじさん、熊を一本背負い

 

熊  グワオ、オオ、

 

  おじさん、勝利の仁王立ち。

 

おじさん  勝った。
棚橋  負けた。本気でやったのに。
佐々倉  やった、おじさん、
おじさん  勝った、勝った、熊に勝ったぞー。熊に、勝ったぞー、うおー。

 

  おじさん、栄光に浸る。

 

おじさん  勝ったけど、なんだ、勝ったからなんなんだ。
佐々倉  おじさん。
おじさん  勝ったからなんなんだ、英雄も自分で英雄だと思うのは一瞬だというわけだ、あとは栄光に浸る時間があるだけ、英雄じゃない英雄だった自分に戻るというわけか、俺は熊に勝った、それは確かなわけだけども、ね、なんなんだ。うん、帰るよ、それじゃ。

 

  おじさん、去る。

  残された二人。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  あっ。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  捨ててなかったんですか。

 

  タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  あっ、いや、マナーモードにしてたんだけどね。

 

  タンタラタラララタラララ、
  
佐々倉  捨ててなかったんですか。
棚橋  捨てようと思ってたんだよ。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  捨てないんですか。
棚橋  捨てますよ。

 

  タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋、スマホを手にとる。

 

  タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋、スマホを見つめる。

 

佐々倉  捨てないんですか。
棚橋  捨てるって言ってるじゃない。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

  棚橋、思いっきりスマホを投げる。
  棚橋と佐々倉、その行方を見ている。

  タンタラタラララタラララ、が消え、暗転

 

4、海食崖、崖の上。

 

  波の音。海猫の鳴き声。

  棚橋、佐々倉、いる。

 

佐々倉  海ですね。
棚橋  そうですね。
佐々倉  海来ちゃいましたね。
棚橋  断崖絶壁ですね。これが断崖って感じですね。
佐々倉  どうして海に来ちゃうんでしょう。
棚橋  あなたが言い出したんですよ。
佐々倉  えっ、そうか私か、いや、棚橋さんでしょ。
棚橋  いや、佐々倉さんですよ。
佐々倉  そんなことはどうでもいいでしょうに。
棚橋  刑事ドラマみたいですね、ほら、あるでしょう、最後に犯人を追い詰めて、なんか私がやったわって白状してって、
佐々倉  私、刑事ドラマ見ないので。
棚橋  いや、俺もあんま見ないけどさ。
佐々倉  死を、意識せざるを得ないわけです。
棚橋  やめなよ、そういうこと言うの。
佐々倉  本当のことを言ってるの、死を意識してしまう、この波を見ていると、この雲を見ていると、この、音を聞いていると。時間がすごく遅く感じる。
棚橋  本当のことは重要かな。
佐々倉  逃げているんですよ、棚橋さんはあれですね、逃げることからも逃げているといった感じですね。
棚橋  そんなことないじゃない、逃げてるじゃない、ちゃんと逃げてるじゃない、スマホも捨てたじゃない。
佐々倉  じゃあ見てくださいな、この海を、この崖を、このゴツゴツした岩岩を。
棚橋  何、死にたいってこと。
佐々倉  考えているのです、この逃避行の終わりを、私たちは何を求めているのか、この関係はいつまで続くのか、うーん、うん、考えているのです。
棚橋  死にたいってこと。
佐々倉  死にたい、いや、死にたいかどうか、うん、いや、確固とした実感が、だから、そうですね、こういうことです、あの秘境駅でおじさんが熊に勝った時の実感が、うーん、だから、さっき食べた海鮮丼はまさしく美味しかったんですが、美味しかっただけといいますか、いや、だから、どうしたいですか。
棚橋  えっ。
佐々倉  これからどうしたいですか。
棚橋  うーん、どうもしたくないんだよなあ。
佐々倉  どうもしたくない、そうなんですよねえ。
棚橋  死にたくもないし、誰かに追いかけられているわけでもないから遠くに行く必要もないし、というか面倒くさいし、ここで家借りていっちょしばらく住み着いてやりますかとそんな意欲もなければ、お金もないし、もはや、もう、帰りたくも、ない。
佐々倉  どうもしたくないとはこういうことですね。

 

  間。

 

佐々倉  えっ、帰りたくないんですか。
棚橋  えっ、帰りたく、ないよ。
佐々倉  あっ、そうなんですか。

 

  間。

 

棚橋  えっ、そうじゃないの。
佐々倉  えっ、あ、そうじゃないのとは、
棚橋  えっ、帰りたいの。
佐々倉  いやいや、帰りたくないですよ。
棚橋  えっ、帰りたいよ。
佐々倉  えっ、帰りたいんですか。
棚橋  あっ、うん、ちょっと帰りたいかなって。
佐々倉  えっ、えっ、あっ、ちょっと。
棚橋  そう、ちょっと。ね。
佐々倉  まじすか、まじすか、ちょっと帰りたいんですか。
棚橋  いや、ちょっとね、ちょっとだよ、えっ、帰りたくないの。
佐々倉  帰りたくないですよ。
棚橋  あっ、なんだ、帰りたいのかなって。
佐々倉  そんなこと言ってないじゃないですか、帰りたいなんて、私、一言も言ってないですよね、
棚橋  えっ、だって、なんか雰囲気が。
佐々倉  だって、ここで帰ったらなんか。負けじゃないですか、なんか負けじゃないですか。
棚橋  なんとなく分かるけど、なんとなく、
佐々倉  えっ、まじで、まじで帰りたいんですか。
棚橋  いや、だから、それは、ちょっとね、ちょっと。
佐々倉  ちょっとなんかないでしょ、帰りたいにちょっとなんかないでしょ、帰りたいか否かでしょ、ちょっとって、それ、ずるいなあ、逃げてるなあ。
棚橋  逃げてるって言われても、ちょっとはちょっとなんだもん。
佐々倉  いや、ずるいずるい、帰りたいなら帰りたい、帰りたくないなら帰りたくない、どっちかですよ。
棚橋  じゃあ、帰りたくない。
佐々倉  信じられないなあ、その言葉、今さら。
棚橋  えっ、じゃあ、帰りたいですよ。
佐々倉  えっ、帰りたいんだ、帰りたいんですね、まじか、帰りたいんだ。
棚橋  えっ、何、どうすればいいの、なんて答えれば正解なの。
佐々倉  正解とかないんすわ、帰りたいって思ってる時点でちょっとちょっとなんですわ、
棚橋  仕方がないじゃない、仕方がないじゃない、仕方がないじゃない。帰りたいよ、ちょっとは。その、培ってきたんだから、家庭とか、仕事とか、培ってきたんだから、色々と、考えて、必死こいて、潰れなさそうなとこ慎重に選んで、上司にダメなやつ認定されないようにアレして、嫁さんとなんかいろいろ子供のこととか相談しながら、さあ、なんか、休日はちゃんと家にいるし、俺の親父の時みたいに仕事仕事にならずに、でも、仕事もちゃんとしながらだけど、休日は出来るだけ家族と一緒にいるし、嫁と二人きりで今だに月一回デート行くみたいな若々しい関係もさあ、培ってきたわけよ、潰しちゃったんだから、この逃避で、いや、まだ分からないけども、今なら、まだ間に合うかもってどっかで思ってるわけだけども、明らかに、あなたと関係を、いや、だから、その、肉体関係も持ってしまったわけだし、その、浮気とか不倫とか一切なかったのに、いや、そりゃあ、いろいろ、うーん、いや一切しなかったわけなのに、ここに来て、ある意味、浮気して、精神的には、あれかもしれないけども、いや、違う違う、いや、そうじゃないんだけども、しかし、少なくとも肉体的にはね、肉体的にはさあ、やってしまったわけだけども、だって、そりゃあ、やるじゃない、って、ってそんな話じゃなくてですよ、まあ、聞いて、聞いてるか、だから、培ってきたんだもん、色々と、一番上がこないだ初めて料理作って、無理して、カレーとか作っちゃって、嫁に習って、なんか、まあうまいよって、そんな、そこまでじゃないけどうまいよ、うまいよ世界で一番なんて言ったりして、そろそろ反抗期とか来そうでビクビクしながらも、あいつは大丈夫かもとか思ったりしてる自分もいてって、いや、でも来るんだろうなあ、反抗期、怖いなあ、いやだなあ、反抗期来たらいやだな、お父さんの後のお風呂嫌だとか言われたら嫌だな、嫌すぎてへこむな、へこみすぎて、あれだな、なんかうーん、へこみすぎるだろうな、うーん、あれ、そう、何の話だっけ、いや、だから、そういうのをさ、培ってきたわけじゃない、だからさ、だってさ、うん、だからさあ、そういうことだよ。うーん。
佐々倉  逃げようっと言ってきたのはあなたですよ。
棚橋  逃げようって言ったのは私でした。逃げようっと言ったのは私です、逃げたいって思ったのも確かなのでありました。しかし、何から、そして、どこへ。
佐々倉  それを探す旅とでも言いましょうか。
棚橋  あっ、なるほど、それは、少しかっこいいですね。ニンクウってアニメ知ってます?
佐々倉  名前ぐらいしか。
棚橋  その、主人公のフウスケが、母ちゃん探して旅してんだってよく言うわけですよ、そんな感じで、俺、逃げる理由探して逃げてんだって、言うのは、少し、そうですね、なんか、いいですね。
佐々倉  ああ、ああ、まあ、いいですね、うん、なんか、いいと思います。
棚橋  そうですね、すみません、なんか、
佐々倉  とりあえず、駅まで戻ってみましょうか、
棚橋  そうですね、しかし、すごい崖だなあ、ここは、

 

  二人、はける。

 

  青年、トボトボ現れる。
  崖の上に立つ。

  海を眺める。
  太陽を見つめる。
  息を思い切り吸い、

 

  二人、そっと戻ってくる。

 

棚橋  あのう、
青年  太陽の、バカヤローっ。
棚橋  えっ。

 

  間。

 

青年  太陽の、バカヤローっ。

 

  間。

 

青年  太陽の、
棚橋  私は好きだーっ。

 

  間。

 

青年  えっ。
棚橋  太陽が、大好きだーっ。

 

  間。

 

佐々倉  あれ、なんか、ありましたね、そういうCM、なんか、ありましたね。

 

  間。

 

棚橋  私は好きだーっ。
青年  あのお、
佐々倉  私は普通だーっ、好きとか嫌いとか、太陽に対してそんなに感情を持ったことがないーっ。

 

  間。

 

青年  俺は、俺は、バカヤローっ、太陽のバカヤローっ。
佐々倉  私は普通だーっ。

 

  間。

 

棚橋  実は私も普通だったーっ、夕日とか朝焼けとか綺麗って思うことはあるけど、あー、好きだわー太陽、めっちゃ好きだわーって感覚ではないかもしれないと今思ったから、私も普通だーっ。
佐々倉  そういう話を聞くと私は嫌いだったー、太陽が嫌いだったー、肌的にシミになるからだーっ。

 

  太陽を眺める三人。

 

青年  なんなんですか、あなたたちは。
棚橋  君が自殺をすると思った。しかし、君は自殺をしなかった、ただ叫んだ。だから私も叫んだ。
佐々倉  私たちは何をしようとしているのか分からなくなりました。なにかしようとして何もしていないような、だから叫んだ。
青年  ああ、はあ。
棚橋  私たちは逃げているのです。
青年  えっ、何から。
棚橋  それを探す旅とでも言いましょうか。
青年  えっ、何言ってるんですか。
佐々倉  あなたはなんで叫んでいたの、まさか本当に純粋な気持ちで太陽がばかやろうと思って叫んでいたわけではありますまい。
青年  いや、まあ、はあ。
棚橋  是非、聞きとうございますなあ。
青年  えっ、なんで。
棚橋  えっ、なんでって、ねえ。
佐々倉  ねえと言われましても。
棚橋  なんでだろ。
青年  えっ、なんで聞きたいんですか。
棚橋  なんで、ちょっと待ってください、ちょっと待ってくださいよ。うんそうだ、これだ、これじゃダメですか、ただ聞きたい、これじゃダメですか。
青年  なんすかそれ、興味本位ですか。
棚橋  そうです、興味本位です。
青年  いやですよ、じゃあ、
棚橋  ちょっと待って、こういうのはどうでしょう、聞いて相談に乗ってあげたい、
青年  なんすかその上から目線は、なんで見ず知らずの人に相談をするんですか、頭いかれてるんですか、
棚橋  えっ、頭いかれてるのかな。
青年  恥ずかしいでしょ、誰もいないと思って叫んだんだから、ちゃんと確認して叫んだんだから、あなた方が行ってしまってもう戻ってこないと思いながら叫んだんだから、
佐々倉  つまり太陽に叫ぶってことは太陽に叫ぶなりの理由があってのことでしょう。太陽に叫びたくなるぐらいの大きなことがなきゃ叫ぶことはないでしょう、例えば、家のゴミ箱にハエがたかってて、うわ、もう最悪、糞が、おいおいおいおい、太陽のバカヤローっとそうはならないわけでしょう。
青年  それはどうでしょうかね、太陽に叫びたくなるぐらいの大きな理由がなくとも太陽に叫びたくなることはありうるのでないすかね。
棚橋  つまりあなたは太陽に叫びたくなるぐらいの大きな理由なしで太陽に叫んでいたとそういうわけでしょうか。
青年  そういうことになりますね。
棚橋  ではなんで叫んでいたんでしょう。
青年  それが、確固たる理由がないんですね。
棚橋  確固たる理由がない。
青年  それはもちろん、モヤモヤした理由はありますよ、先週告白したらふられたし、進路希望どうしようか分かんないし、ゲーム買うお金欲しいし、しかし、確固たる理由はないんですね。
棚橋  なるほど、つまりモヤモヤしているから叫んだ、そういうことになりますかね。
青年  そういうことになりますねって言ってるそばから、バカヤローっ。

 

  間。

 

青年  どうですか。
棚橋  えっ、なんですか。
青年  僕の叫び、どうですか。
棚橋  いや、なんか、すごいね、ねえ。
佐々倉  はい、なんか、モヤモヤの魂っていうか、ねえ。
青年  そうでしょ、週一ぐらいでここに来て叫んでいるんです。
棚橋  それはすごい、それは、もう、なんというか、プロですね。
青年  そうでしょ、もはやプロじゃないかな、
棚橋  いや、すごい、プロのなんかを経験できるとは。
青年  あなたの叫びも良かったです。
佐々倉  えっ、私ですか。
青年  そうですね、なにか、なんというか、モヤモヤ度が、すごく、でも、あなたはダメですね。
棚橋  えっ、ダメなの。
青年  なんか、ダメですね。
棚橋  えっ、なんで、なんでダメなの。
青年  えっ、なんでだろ、もっかい、もっかい叫んでみてよ。
棚橋  えっ、分かりました。

 

  棚橋、叫ぼうとするが、

 

棚橋  えっ、なんて叫べばいいんでしょう。
青年  もうダメだ、その時点でダメだ。
棚橋  ええっ、どうしよ、なんて叫ぼう。
青年  思ったことをそのまま言えばいいんですよ。
棚橋  太陽のバカヤローっ。

 

  間。

 

青年  ダメですね。
佐々倉  ああ、ダメだなあ。
棚橋  えっ、なんで。
青年  だってまず、僕のパクリじゃない。
棚橋  君だってどっかで見たことあるような聞いたことあるような文句のパクリじゃない。
青年  いや違うんですね、僕は違うんですよ、僕は太陽バカヤローって思ってんですね、本気で、あんた思ってないんですよ、太陽バカヤローって思ってないんですわ、本気で思ったこと言わないと。
棚橋  本気で思ったこと。
青年  ほら、目を閉じて、
佐々倉  息吸って。
青年  浮かんできたでしょ、言葉、浮かんできたでしょ。
棚橋  ああ、ああ、あああ。
青年  ほら来てんじゃない、言葉、来てんじゃない、
棚橋  ああ、案ずるが産むが易しーーっ。

 

  間。

 

佐々倉  どういうこと。
青年  まあ、さっきよりは、まだまだいけるね、
棚橋  まだまだっすか、プロ。
青年  もっとモヤモヤ度をね、モヤモヤ度を深めていかないと。
棚橋  モヤモヤ度。
青年  はい、目閉じてえ。
佐々倉  息吸ってえ。
棚橋  言葉、言葉ってやつはーーっ、

 

  間。

 

青年  んん、ちょっと遠のいたかな、ねえ。
佐々倉  そうですね、ちょっと、高尚に見られたいって欲が出ましたね。
棚橋  ああ、欲出ちゃってた、欲出ちゃってた。
青年  はい、目え閉じてええ。
佐々倉  息吸ってええ。
青年  ここ大事よ、ここ大事だから。
棚橋  はい、あっ、息が。
佐々倉  息吸ってええ。
青年  モヤモヤ度深めて、モヤモヤ度深めて、今まで生きてきた中で感じたモヤモヤ、深めて、はいっ。
棚橋  アーノルドッ、シュワールツネッガーーっ。

 

  間。

 

青年  いいじゃん、
棚橋  えっ、いいっすか。
青年  ねえ、
佐々倉  うん、
青年  めっちゃいいよ、すごい、めっちゃいいって言ってるそばからシュワールツネッガーーっ。
佐々倉  ネッッガーーっ。
三人  ネッッガーーっ。

 

  間。

  夕日が沈んでいる。

 

青年  夕方と、夜の、境さ。
棚橋  えっ。
青年  三谷幸喜の映画で知ったんだけど、マジックアワーって言うんだってさ。
佐々倉  ああ、あの、映画。
青年  カメラで一番美しく撮れる時間帯ですわ、カメラ持ってないけど。
棚橋  スマホなら、あっ、スマホ捨てたんだった。
青年  スマホ、捨てた、やばいね、あっ、俺のスマホで撮ろっか。
佐々倉  あっ、そういう流れ、写真撮る流れ。

 

  青年、スマホを掲げる。
 
青年  はいっ、ポーズっ。

 

  ポンっ。

 

棚橋  カシャって言わないんだね、
佐々倉  そうですね、最近のは。
棚橋  なんだか、なんだかって感じだね。
佐々倉  そうですね。
青年  ラインで送りたいんだけど。
佐々倉  あっ、私たち、スマホを、
青年  あっ、そっか、捨てたんだっけ、えっ、なんで。
佐々倉  逃げてるからですよ。
青年  ああ、そっか、逃げてるんだった、そっか、じゃあ、この写真は俺だけのものか、なんか、なんだかなあ。
棚橋  大丈夫です、この経験は忘れません、このモヤモヤは。
佐々倉  モヤモヤ。

 

  三人、夕日があったであろう方向を見つめる。

 

青年  俺、自殺するわ。

 

  間。

 

棚橋  ああっ、えっ、そう。えっ、なんで。
青年  海猫が呼んでいるんだ、お前も一回ぐらい空飛んでみたらどうかってさ、
棚橋  ああっ、えっ、すごいね、どうした、何があったの。
青年  だからなんにもないんだって、なんにもないんだけどね、
佐々倉  あるね、ありますよ、そういう時。
青年  あっ、分かる、
棚橋  えっ、ある、海猫に呼ばれる時なんてあるの。
佐々倉  海猫に呼ばれる時はないですね。
棚橋  えっ、どういうこと、
青年  俺、自殺する。
棚橋  えっ、今、今すぐするの。
青年  今、うん、今だな、そう、今この時、うん、今このマジックアワー、うん。
佐々倉  マジックアワー、それは写真だけでなく人までもマジックにかけてしまうものなんですね。
棚橋  何言ってるの。
佐々倉  一つ、提案があります、私たちにあなたを殺させていただけませんか。
棚橋  えっ。
佐々倉  突き落とさせてもらってもいいかな、あなたを。
青年  俺を殺すってこと?
棚橋  何言ってるの、佐々倉さん。
佐々倉  私たち、なにか、振り切れてないんじゃないかって、なにかが、なんだろ、何かが。
棚橋  ちょっと待って、ない、ないよ、何言ってるの。
青年  えっ、俺、殺したいの。
佐々倉  いや、全然。
青年  じゃあ、なんで。
佐々倉  今のままじゃ、なんだか、そう、なんだかって感じなのね。
棚橋  佐々倉さん、落ち着いて。
佐々倉  落ち着いてます、私は至極冷静です。
棚橋  至極て何、至極なんて言葉使う女の子いる、至極冷静て、
青年  いいよ。
棚橋  ちょっと、何言ってるの。
青年  自殺したいって思ってたのは事実なんだわ、死にたいって思ってたんだわ、怖いけど、めっちゃ怖いけど、スカスカなの、なんか、スカスカしてるの、表層的な付き合い、いや、そんなんじゃないけど、友達はいないわけじゃないよ、けっして、いじめられてるとかそういうのもないんだよ、ただ、スカスカなんすわ、そう、ずっと、今だけじゃない、ずっと、飛びたいって、あの、海猫みたいに飛びたいって思ってたんですわ、でも、人間、飛べないよね、人間、海猫じゃないから、飛べないよね、飛行機とかじゃなくてよ、ちゃんと自分の体で、飛びたいって、人間は、でも、一回しか飛べないわ、そりゃあ、スカイダイビングとかも別よ、そういうの抜きにして、俺たち、一回しか飛べないわ、でもさあ、それ、ありじゃあない、って、あなたたちと叫んで、すごい、なんて言うか、ランキング上位だわ、FFテンの雷除け200回連続成功したぐらい上位、うん、叫んでる時だけなのよ、俺は、叫んでる時だけ、でも、だんだん叫ばなくなる、俺も、叫ばなくなっていく、なんだか、なんだか、ね。ありじゃないかって。
棚橋  考え直せ、考え直せ、生きてたらいいこといっぱいあるぞ。
青年  そりゃああると思うよ、そりゃああると思うけどね、そういうことじゃないんだよね、
棚橋  ええ、どういうこと。
佐々倉  棚橋さん、
棚橋  えっ、何?
佐々倉  逃げ出したいって言いましたよね。
棚橋  言いましたけどもね。
佐々倉  チャンスだと思うんですよ、
棚橋  何がチャンスよ、逃げ出したくても人を殺したいなんて言ってませんよ。
佐々倉  私たち、逃げきれてないじゃないですか、なんか、逃げきれてないじゃない、これはですよ、なんて言うんですか、逃げざるを得なくする行為とでも言いましょうか、だって、そうでしょ、根本間違ってたんですよ、だって、何も逃げることがないんだもん、そりゃあ、わけ分かんないよ、逃げることから逃げられなくするためにですよ、
棚橋  殺すの、逃げるために殺すの、どういうこと、そんなことってある?
佐々倉  だって、あなたはさ、なんかさ、だってさ、一回私とやったぐらいでさ、めっちゃ逃げたみたいな感じ出してますけど。
棚橋  どういうこと、一回あなたとやったら、逃げた感って何、
佐々倉  だって、なんか、私、なんか、全然逃げられてる気がしないんだもん、あんま、変わらない、なんかスリルというか、いや、そう、なんだろ、逃げてるぞーって感じ、なんか、いや、もう、逃げてることを求めてるわけじゃないと分かっていつつも、えっ、何を求めてるんだ、って、分かんないけど、でも、とことん、とことんやってみたいと思ってるのね、とことん、何かをとことん、そう、これよ、なんでもいいけど、とことんってこと、とことんやってみたい、それが今、とことん逃げてみたい、でも全然とことんじゃない気がして、とことんやってみないかと、この青年を死なせてあげて、そしたら、警察が殺人事件じゃないかってなって、私たちはそれから、とことん逃げるの、もうほんと、とことん、そういうこと、分かる?
棚橋  えっ、ちょっと待って、ちょっと、えっ、いいの。
青年  やってみよっか。
棚橋  待って、ダメだよ、えっ、そんなんで命捨てていいの、いやダメでしょ、えっ、
佐々倉  じゃあいいですよ、分かりました、私だけで、私だけでやりますから、棚橋さんは帰ってくださいよ、奥さんと子供のもとへ、帰って、私だけで逃げます、私だけで。
棚橋  なんでそんなこと言うの、なんでそんなこと言うの、一緒に逃げてきた仲じゃない。
佐々倉  じゃあどうするのですか、

 

  青年、崖の淵に立ってる。

 

青年  マジックアワー。
棚橋  やっぱり考え直そう、気が狂ってるよ。
青年  こええ。
棚橋  怖いだろ、怖いだろ、やめとけ、戻ってこい。
佐々倉  私はこの青年を押します、そして、走ります、ダッシュします、ダッシュで逃げます、初めて人を殺します、そしてダッシュで逃げます、何事からも、本当に何事からも、日常からも、彼氏からも、親、お兄ちゃんお爺ちゃん、おばあちゃん、父方のお婆ちゃん、美沙子、洋次、高橋先輩、中澤先輩、新井さん、三沢さん、常連のおばさんたちからも、全てから逃げます、それぐらいのことしなきゃ、それぐらいのことしなきゃ逃げられませんよ、きっと、とことん、とことん逃げるって、そう、この、若者を崖から、それぐらい、とことん、
棚橋  佐々倉さん、
佐々倉  棚橋さんはそこで見てるんですね、とことん、見てるんですね。
青年  いく、いっちゃう、まじで、いく。
佐々倉  いきますよ。
青年  最後の言葉考えないと、どうしよ、人生最後の言葉なんて言おう。

 

  佐々倉、一歩前へ。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  えっ。
棚橋  あっ、えっ。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

青年  あああ、死ぬかと思った、死ぬかと、思った、生きてる、俺、生きてる。
棚橋  えっ、携帯、君の?
青年  ああ、えっ、携帯、えっ、僕のじゃないですよ。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  捨てたよね、スマホ、捨てたよね、

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  捨てたのに、えっ、どっから聞こえるの、なんで、なんでスマホが鳴るの。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

佐々倉  ああ、あああ、あああ、
棚橋  佐々倉さん。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、
  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

  スマートホンの音が世界を包み込み、暗転。

 

 5、ネイルサロン。

  

  佐々倉、いる。

  棚橋、入ってくる。  

 

佐々倉   いらっしゃいませ〜。
棚橋  どうも。
佐々倉  今日はどのようになさいましょうか。
棚橋  えっ、あっ、えっ、どのように、
佐々倉  ネイル、されにきたんですよね、
棚橋  えっ、あっ、ええ。では、ネイルを。
佐々倉  どのプランになさいましょうか、
棚橋  えっ、プラン、
佐々倉  ジェルプランですとお値段7500円、
棚橋  7500円っ。
佐々倉  普通のカラーリングですとお値段5000円、
棚橋  5000円っ。
佐々倉  あと爪をテカテカに、もうテッカテカにするプランなどもありますが、
棚橋  じゃあ、あのう、普通ので、
佐々倉  普通のでよろしいですか、
棚橋  普通ので、よろしいですよ、
佐々倉  このジェルプランの際は、普通の方より本当に落ちにくいと評判でして、ほら、これも、私がしているのなんかもこのジェルを使ってるんですが、ほら、見てください、これで2週間目なんです、普通の方ですと、2週間も経っちゃうとほとんど落ちちゃうんですが、まあ、どっちみち爪は伸びてくるのでまた塗りに来なきゃいけないんですけどね、でも、まあ、見比べてみたら分かるんですけど、ツヤとか、全然違ってきますね、もう、全然。まあ、そんな感じなんですが、どうしますか、
棚橋  ああ、ええ、いや、普通のほうで、
佐々倉  かしこまりましたー、それでは。
棚橋  えっ、
佐々倉  あっ、手を。
棚橋  あっ、手か、
佐々倉  はい、手を。ネイルしますんで、
棚橋  そうですね、あっ、そうでした、

 

  棚橋、手を出す、
  佐々倉、手を見る。

 

佐々倉  荒れちゃってますね、
棚橋  荒れちゃってますか、
佐々倉  整えていきますね〜。

 

  間。

佐々倉  今日はどうしていきましょうか。
棚橋  えっ、あっ、どうしましょう、
佐々倉  お客様、初めてですか、
棚橋  ええ、ええ、初めてです、
佐々倉   緊張しなくても大丈夫ですよ、リラックスしてくださいねー、男性のお客様もたまにいますよ、今の時代、女性だけのものではないですから。
棚橋  ああ、はい。
佐々倉  花つけたり、星つけたり、そういうようなネイルは望んでないですかね、シンプルに色塗るだけって形で進めていきましょうか。
棚橋  ああ、はい。
佐々倉  何色がいいですか。
棚橋  何色がいいですかね、
佐々倉  えっ、私が決めるんですか。
棚橋  えっ、ダメですか。
佐々倉  ダメじゃないですが。
棚橋  お願いします。
佐々倉  はあ、そうですねえ、あまりあからさまに明るいピンクとかオレンジてのもあれでしょう、
棚橋  あれですね、
佐々倉  かと言って無難な当たり障りないというのもどうかとも思いますよね、
棚橋  どうかと思いますね、
佐々倉  水色なんてどうでしょう。ちょっと新たな世界にチャレンジする感覚で。
棚橋  ああ、いいですね、水色、はい、じゃあ、水色で、
佐々倉  水色で、かしこまりましたー、じゃあ、温めていきますねー。

  

  間。

 

棚橋  あれから。
佐々倉  は、
棚橋  どうしてた。
佐々倉  あれから。
棚橋  あれから。
佐々倉  あれから。
棚橋  どうしてましたか?
佐々倉  なんのことでしょう。

 

  間。

 

棚橋  確かに。
佐々倉  はあ。
棚橋  言った。
佐々倉  何を。
棚橋  もう会わないって。
佐々倉  はあ。
棚橋  言った。
佐々倉  拭いていきますねー。
棚橋  君もか。

 

  間。

 

棚橋  君もなの。
佐々倉  ええと、何がですか。
棚橋  あれから、あれから、僕は、あれから、
佐々倉  カラーリングしていっちゃいますねー。
棚橋  家帰って、嫁に、いろいろ聞かれて、分からないって、なんか、記憶喪失装って、分からないって、会社にも、それで通して、病院行ったりして、特に異常はないけどもって、なって、ねえ、なんか、でも、疲れてるんだろって、会社からは、特に怒られたりもせずに、有給扱いなって、クビとかには全然ならず、家庭も崩壊なんてなく、皆、分かってるんだよね、きっと、絶対、記憶喪失とか嘘だろって、分かってるんだけどね、分からないから、どうして三日間もいなくなるのか、人がどうして、三日間もいなくなるのか分からないから、嫁とかもさ、浮気かなんかかもって、思ってんだろうけど、まあ、実際浮気まがいのこともあったけど、いや、そういうことじゃなくて、でも、壊れたくないからさ、壊したくないからさ、皆、信じてくれて、あの三日間は、なんか、なくなって、なんだったんだろって、けっこう、僕的には、すごいことしたんだけど、とてつもないことした気でいたんだけども、
佐々倉  なんのことか全然分かんないんですけどね、
棚橋  本気で言ってるの、
佐々倉  なんのことか全然分からないんですけどね、三日間、いなくなったんですか、仕事ほっぽらかして浮気したってことですかね、分からないですけどね、すごいですねー、そんな経験私したことない、一度はそういうことやってみたいですよねー、
棚橋  やめてやめて、えっ、ごめん、ごめんよ、俺のこと知らないふりするのやめて、ごめんよ、約束破ってごめんよ、でもさあ、一回でいいんだ、一回だけ、話してよ、あの時のこと、どう思ってるのか、あれからどうしていたのか、君まで、なんか、さ、一回だけでいいからさ、話してよ、仕事辞めさせられなくて済んだってことかな、
佐々倉  私、仕事辞めさせられるようなこと一回もしてませんけど。
棚橋  君は、えっ、なんなの、えっ、忘れてるの、覚えてないの、
佐々倉  動かさないでくださいねー。
棚橋  すみません。動かしませんから、動かしませんから、君は、えっと、なんだ、えっ、名前は。
佐々倉  名前、私ですか、佐々倉と言います、指名してくれたりする感じですか。
棚橋  佐々倉さんだよね、佐々倉さんだよね、佐々倉さんだよね。
佐々倉  大丈夫ですか、
棚橋  僕だよ、棚橋ですよ。
佐々倉  はあ。初めまして。
棚橋  逃げ出したいって言ったでしょ、そしたら、君も、逃げ出したいって。
佐々倉  すみません、動かさないでくださいねー、
棚橋  あっ、はい。すみません。今度はさ、今度はすごいから、僕、今度は凄いことするから、ねえ、逃げようよ、もう一度、ねえ、逃げ出そうよ、ここからさ、俺、ちゃんと逃げますから、ガチでとことん、ガチマチに逃げるから、銀行強盗もするし、殺人だって犯すかもしれない、今度の俺はすごいから、君が逃げてるってバッチバチに、もう、バッキバキに感じるように逃げるからさ、俺の世界はここじゃないのよ、違うんだ、こんなまやかしの世界じゃないのよ、戻ってきて気付いたのよ、ねえ、逃げよ、もう一回、もう一回だけでいいからさ、
佐々倉  はーい、動かさないで、そのままでいてくださいねー、
棚橋  そういうこと、そういうことなの。
佐々倉  そういうことです、そういうことですよー。
棚橋  ああ、はい、すいません、
佐々倉  すぐに終わらしますので、すぐに終わらしますので我慢してくださいねー。
棚橋  帰ります、
佐々倉  まだ途中ですよ、まだ全然終わってませんよ。
棚橋  鳴り止まないんだあの音が、
佐々倉  音?
棚橋  あー、うるさい、ほんと、うるさい、
佐々倉  大丈夫ですか、何も聞こえませんが、
棚橋  聞こえなくなったの。
佐々倉  えっ、なんですか、何か聞こえてる感じですか。
棚橋  スマホの着信音ですよ。
佐々倉  着信音。
棚橋  鳴り止まないんですよ。
佐々倉  でればいいじゃないですか。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  えっ。
佐々倉  でればいいじゃないですか。
棚橋  でる。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ、

 

棚橋  でる。

 

  タンタラタラララタラララ、タンタラタラララタラララ

 

棚橋  はい、もしもし。

 

  音が止むが、棚橋の右手の指には水色がついてる。

 


終わり。