稲垣和俊戯曲集

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僕達vs宮島直子

「僕達vs宮島直子」
                                  
 放課後、教室、二人の男子高校生がしゃべっている。
 
田中 今年ももう終わりだな~。
川崎 そうだね。
田中 今年はなにが一番楽しかった?
川崎 今年か。今年今年。
田中 なんだろうねえ。
川崎 あれだなあ。あの、体育祭のフォークダンス。
田中 ああ、あの体育祭のフォークダンスね。
川崎 あれは楽しかったよなあ。
田中 うんうん、あれは楽しかったよ。
川崎 いやあ、本当にとっても楽しいフォークダンスだったよ。
田中 うんうん、でも何があんなに楽しかったんだろうか。
川崎 何が?
田中 何が楽しかったの?
川崎 それは、フォークダンスはフォークダンスっていうだけで楽しいだろうさ。
田中 本当に?
川崎 なんだよ。
田中 本当にフォークダンスはフォークダンスっていうだけで楽しいの?
川崎 そうだよ。フォークダンスはフォークダンスっていうだけで楽しいじゃないか。
田中 違うな。
川崎 なんだよ。
田中 お前にとって、ただのフォークダンスではなかっただろう。
川崎 なにお。
田中 宮島直子がいたからだろう。
川崎 宮島直子っ。
田中 そうだ。お前は宮島直子と手を繋げたことを喜んでいる。それがフォークダンスを楽しい思い出にさせているんだ。
川崎 違うよ。俺は宮島直子を抜きにしてもフォークダンスが楽しかったよ。
田中 俺は楽しくなかった。俺はフォークダンスなんぞこれっぽっちも楽しくなかったよ。あんな単調なリズムで長時間、単調な振りを踊り続けることに、普通の男子高校生が楽しみを見いだせるとでも思うか。
川崎 楽しかったもん。
田中 お前は、宮島直子が好きだっ。
川崎 どうかな。
田中 修学旅行中、お前は宮島直子とばっかりしゃべってた、そして、女子の部屋に行こうぜとみんながなっている時も、みんなギャルグループの部屋に行こうとしているのに、お前だけは何故か、全然目立たない女子グループの部屋に行きたがった。それは、宮島直子がいた部屋だからだ。お前は宮島直子が好きだ。さらに、お前が一度偶然を装って宮島直子と駅まで一緒に帰ったことを知っているぞ。あの時、お前は明らかに変だった。いつも部活終わりでみんなと帰るお前が「あっ、俺、雑用仕事終わらせてから帰るから先帰って」なんて言っちゃって、普段は雑用なんて後輩に全部任せっきりのくせに。宮島直子の部活が終わるまでの時間稼ぎをしていたんだろう。自転車置き場で自転車の鍵無くしたフリしちゃって、「あっ、今帰り?いやあ、チャリの鍵なくしちゃってさあ。カバンのポケット?あっ、あったよ、ありがとう~」カバンのポケットなんて一番最初に探す場所だろ。「お礼に駅まで送るよ」っておかしいおかしい。お礼っていうのは相手が喜ぶことしなきゃお礼って言わないから。駅まで送るって、お前が、お前が嬉しいだけだろうが。
川崎 お前全部見てたのかよ。
田中 全部見てたね。お前は宮島直子が好きだ。
川崎 お前。俺は宮島直子が好きだ。認めよう。
田中 はっはっは。ついに認めたか。お前がフォークダンス楽しかったのは宮島直子がいたからか。
川崎 そうだ。おれがフォークダンス楽しかったのは宮島直子が好きだからだ。
田中 はあ、そうかそうか。好きか。お前は宮島直子が好きか。
川崎 だがしかし、お前も宮島直子が好きだ。
田中 何?
川崎 お前が事細かに、俺と宮島直子の関係を見ていたのは、お前も宮島直子が好きだからだろうっ。
田中 俺は宮島直子が好きではない。
川崎 嘘をつけ。お前はフォークダンスなんぞこれっぽっちも楽しくないと言っていたが、それは、宮島直子と同じ円にいなかったからだろう。
田中 何?
川崎 今年のフォークダンスは二つの円に分かれてた。ABC組とDEF組の円にだ。俺はB組、宮島直子はC組。お前はE組だ。つまり、お前は宮島直子と手を繋げていない。宮島直子を抜きにしたフォークダンスだったのだ。だから、元々楽しくないフォークダンスに、もう一方の円に好きな相手がいるということを恨みに恨み、よりフォークダンスが楽しくなかったのだ。違うか?お前も宮島直子が好きだ。
田中 違うな。俺は宮島直子が好きではない。
川崎 嘘つくな。お前は宮島直子が好きだ。
田中 違う。俺は宮島直子が好きではない。
川崎 認めろよ。
田中 認めない。
川崎 じゃあ、なんで俺と宮島直子の一緒に帰ったエピソードをこんなに事細かに見ていたんだよ?
田中 うるさい。
川崎 うるさくねえ。
田中 何故そんなに認めさせたがるんだ、川崎?
川崎 何故?正々堂々と勝負したいからだ。
田中 か、川崎。
川崎 分かれよ。田中。スポーツマンシップに乗っ取って宮島直子を奪い合おうぜ。
田中 川崎。
川崎 田中。
田中 俺は、宮島直子が好きだ。認めよう。
川崎 田中。やっと認めたか。田中。
田中 これからは、ライバルだぜ。川崎。
川崎 田中。
田中 川崎。
 
 宮島直子、入ってくる。
 
二人 み、宮島直子。
宮島直子 あ、はい。
二人 いや、なんでもないなんでもない。
宮島直子 そう。
川崎 どうしたの。こんな時間に。
宮島直子 いや、えっと、忘れ物。
川崎 そっか。
宮島直子 うん。
田中 …聞いてた?
宮島直子 えっ…何が?
川崎 いや、大丈夫大丈夫。
宮島直子 そう。
 
 宮島直子、何か言いたそう。
 
川崎 どうしたの?
宮島直子 …。
田中 忘れ物は?
宮島直子 川崎君と二人で話してもいい?
田中 えっ?
川崎 えっ、俺?
宮島直子 うん、川崎君と。
川崎 俺は、いいけど。
田中 えっ、えっ、いいよいいよ。全然いいよ。
宮島直子 ごめんね。ちょっとだけだから。
田中 あっ、うん。いや、ちょうど帰ろうと思ってたから。
宮島直子 ああ、そうだったんだ。
田中 そうそう。じゃあね。
宮島直子 じゃあ。
川崎 …。
 
 田中、去る。
 
宮島直子 ごめん。急に。
川崎 いや、うん。何?話したいことって?
宮島直子 私、川崎君のこと好きです。
川崎 ええっ。
宮島直子 ずっと前から好きでした。付き合ってください。
川崎 俺も好きだった。
宮島直子 えっ本当に?
川崎 うん。
宮島直子 嬉しい。とっても。
川崎 うん。俺も。
宮島直子 じゃあ、付き合ってくれるの?
川崎 うん。うん。
宮島直子 やった。やったっ。とっても嬉しい。今まで生きてきた中で一番嬉しい。
川崎 俺も嬉しい。
宮島直子 やったやったっ。
川崎 やったやったっ。
二人 やったやったっ、やったやったっ。
宮島直子 初めての彼氏だよ。
川崎 俺も初めての彼女だよ。
宮島直子 やったやったっ。
川崎 やったやったっ。
二人 やったやったっ、やったやったっ。
宮島直子 で、なんて呼びあう?
川崎 えっ。
宮島直子 これからは恋人同士だもん。今までみたいに、宮島直子って呼ぶのは止めてさ、恋人同士の呼び方を考えなきゃ。
川崎 ああ、そうかそうか。
宮島直子 川崎くんのことはストレートに下の名前で、ヒロシって呼ぶね。
川崎 ああ、うん。
宮島直子 あれ?ヒロシじゃいや?ヒロポンとかにする?
川崎 いや、ヒロシでいいよ。
宮島直子 私のことなんて、呼ぶ?
川崎 じゃあ、直子?
宮島直子 じゃあって何?じゃあって。合わせたでしょ。
川崎 いや、合わせてないよ。
宮島直子 ちゃんと考えてよ。ちゃんと。
川崎 ちゃんと…。じゃあ、ナオチャン。
宮島直子 だからじゃあって何?
川崎 ごめん。
宮島直子 まあいいや、でもうれしい。ナオチャンって呼んでよ。ヒロシ。
川崎 えっ。あっ、僕か。
宮島直子 ちょっとしっかりしなさいよ。ヒロシ。
川崎 うん。ごめんごめん。
宮島直子 ねえ、ナオチャンって呼んでよ。
川崎 えっ、今?
宮島直子 今に決まってるじゃない。
川崎 …ナオチャン。
宮島直子 ヒロシ。
川崎 ナオチャン。
宮島直子 ヒロシっ。
川崎 ナオチャンッ。
宮島直子 ヒーロシっ。
川崎 ナーオチャンっ。
宮島直子 ヒーロシっ。
 
   間。
 
宮島直子 今日一緒に帰ろうね。
川崎 えっ、うん。そうだね。
宮島直子 もう帰る?
川崎 えっ、あっ、…ちょっと待っててもらっていい?担任に進路のこと話に行く予定だったんだ。
宮島直子 そう。じゃあ、自転車置き場で待ってるね。ヒロシ。
川崎 あっ、うん。…ナオチャン。
 
 宮島直子、川崎を見つめている。
 
川崎 どうしたの?
宮島直子 なんでもない。じゃあ、また後でね、ヒロシ。
川崎 うん。
 
 宮島直子、去る。
 田中、数秒後に入ってくる。
 
川崎 田中。
田中 川崎。
川崎 今、付き合うことになった、宮島直子と。
田中 川崎。てめえ。
川崎 びっくりしたよ。まさかあんなにライバル宣言した瞬間から向こうから来るとは。
田中 知ってたんじゃないの?
川崎 えっ。
田中 知ってたんじゃないの。そろそろ宮島直子と付き合えそうなの知っててライバル宣言して俺に恥かかせたんでないの。
川崎 そんなわけないじゃん。
田中 こんなのってないだろう。ライバル宣言したばっかだぞ。
川崎 本当にびっくり。
田中 知ってたんでないの?
川崎 だから、知らないって。
田中 俺もナオチャンって呼びたかった。
川崎 お前、聞いてたのか?
田中 ああ、一部始終な。ヒロシ。
川崎 やめろ。
田中 川崎、俺達のあの友情を誓いあった一瞬を返せよ。
川崎 そんなこと言われてもさ。
田中 俺達のあの友情を誓い合った一瞬を返せよ。お前が俺に宮島直子が好きだと認めさせさえしなければ、俺はお前が宮島直子と付き合ってもここまで恨むことはなかっただろう。しかし、お前は俺に宮島直子が好きだと認めさせた。川崎、お前が犯した罪は大きい。
川崎 そんなこと言われてもさ。
田中 川崎ぃ。
川崎 田中…。
田中 今日手をつなぐだろう。予告してやる。お前達は今日手をつなぐ。
川崎 なんだよ。そんなこと分からないよ。
田中 いや、手をつなぐ。絶対だ。キスまで行く可能性もあるぞ。
川崎 キスだと?
田中 そうだ。キスだ。
川崎 いやいや、そこまではいかないよ。さすがに。
田中 いや、今日の宮島直子とお前の二人っきりの場面を見る限り相当宮島直子がリードしている。宮島直子の行動ですべてが変わる。すべては宮島直子のペースだ。宮島直子が今日中にキスをしたいと思えば、もうキスせざるを得ない。
川崎 なんだよ。俺のペースでいられないのかよ。
田中 そうだ。お前のペースではない。断言してやる。お前のペースではない。宮島直子のペースだ。ペースって何回も言うとペースって言葉なんかあったっけっていう感覚におちいるね。
川崎 どうでもいい。宮島直子のペースだとして、今日付き合い始めたばかりでキスまで行くかな?
田中 今時の女子高生をなめんなよ。キスぐらいだ。キスぐらい。
川崎 ぐ、ぐらいだと。
田中 そうだ。さっきの二人の時間明らかに宮島直子はキスを求めた瞬間があった。俺はそれを見逃さなかった。
川崎 なんだと…。
田中 お前は今日キスされる。お前にその覚悟はあるかな?川崎。
川崎 …あ、あるに決まってる。
田中 そうか、ならば次の段階も想定しておこう。次の土曜日、休日だ。宮島直子が家に誘ってくるかもしれない。
川崎 なんだと。
田中 お前は宮島直子の家に行き、ソファーでくつろぐ。宮島直子がお菓子とジュースを持ってきてくれる。二人で楽しくしゃべっていると宮島直子がこう言い出す。「今日夜まで親が二人共仕事なの」。
川崎 そ、それは。
田中 そうだ。セックスだ。
川崎 セックスだと。
田中 そうだ。セックスだ。
川崎 …。
田中 怖気付いたか。川崎。セックスだぞ。川崎。
川崎 …。
田中 お前にその覚悟があるのか。川崎。
川崎 セックス。
田中 覚悟がないなら俺に譲れ。川崎。
川崎 セックス。
田中 川崎ぃ。俺にはお前の未来が見える。ソファーで彼女に跨り、彼女の制服のボタンを一つ一つはずしていく慣れないお前の手つきが見える。
川崎 セックス。
田中 ファスナーが布に引っかかり、ちょっとあたふたして、不機嫌そうになった宮島直子に気を使うお前の引きつった笑顔が見える。
川崎 セックス。
田中 川崎ぃ。お前は宮島直子のおっぱいに触るのか?お前は宮島直子のおっぱいに触るのか?
川崎 田中。
田中 俺は宮島直子のおっぱいに触りたい。
川崎 田中っ。
田中 笑うがいいさ。俺はお前と宮島直子が付き合うと聞いた今でさえ宮島直子のおっぱいに触りたいと言ってるんだ。笑うがいいさ。笑うがいいさ。
川崎 俺は宮島直子のおっぱいに触る。
田中 そうか、触れ。お前は宮島直子のおっぱいに触るんだ。ただしかし、覚悟をしろよ。川崎、お前が宮島直子と手をつなぐ。お前が宮島直子とキスをする。お前が宮島直子のおっぱいを触る。お前が宮島直子とセックスをする。その瞬間俺とお前は、もう友達ではいられない。
川崎 何故だ。
田中 理由は単純。俺がお前を見れないからだ。
川崎 嫉妬か。
田中 そう嫉妬。ただの嫉妬。されど嫉妬。俺は毎晩お前と宮島直子がやっているところを想像するだろう。枕をギュッと抱いて、目にはうっすら涙を浮かべて、眠れない夜を体験するだろう。お前と宮島直子がやってることを毎晩考えて、俺がお前と普通に接せられると思うか?
川崎 想像するなよ。
田中 そんなことはもちろん想像したくない。しかし、してしまうんだきっと。現にもう始まってるじゃないか。
川崎 お前と俺の仲はこんなにも簡単に壊れるのか?
田中 そうだ、川崎。こればっかしはどうしようもない。
川崎 お前は頑固だ。
田中 なんだよ。
川崎 もっと心の広い人間になれよ。
田中 なんだよ。心の広い人間って。
川崎 俺達は友達だったはずだ。もう何年もの付き合いだ。俺達の友情はそんなに簡単に壊れるものなのかよ。
田中 しかしな、川崎。もしお前が俺の立場で、仲が良かった友達が好きな人と付き合い始めたとしたらそいつと普通に接せられるか?心の広い人間でいられるか?
川崎 …。
田中 いられないだろう?
川崎 いられるさ。
田中 お前はいられても、俺は、いられないんだよ。
川崎 お前もいられるさ。
田中 もう一度だけ聞く。お前は、宮島直子とセックスするのか?
川崎 …。
田中 お前は、宮島直子とセックスする覚悟はあるのか?
川崎 俺は。
田中 …。
川崎 俺は宮島直子とセックスする。
田中 そうか。…行け。
川崎 …。
田中 行けよ。宮島直子が待ってるぞ。
川崎 あんまりだよ。
田中 泣き言か。
川崎 俺が宮島直子とセックスしても仲良くいてくれよ。
田中 無理だ。お前は今更何言ってるんだ。覚悟したんだろ。早くしないと宮島直子が待ちくたびれて喧嘩になるぞ。
川崎 そんなことはどうでもいい。
田中 どうでもよくないだろう。付き合いたてなのに、いきなり険悪になるぞ。
川崎 お前が変なこと言うから、俺はこれから宮島直子と会うときずっと罪悪感を持つことになりそうだ。
田中 …。
川崎 それを計算してたな。
田中 …そうかもしれない。ごめん。
川崎 謝るなよ。
田中 …。
川崎 宮島直子に会うのが怖いじゃないか。
田中 覚悟したんだろ。
川崎 田中…。
 
 宮島直子、入ってくる。
 
宮島直子 ちょっと。
二人 み、宮島直子。
宮島直子 あれ、田中君、帰ったんじゃなかったの?
田中 ああ、うん。
宮島直子 あれ?もう言っちゃった?私達が付き合うことになったの言っちゃった?
川崎 …。
田中 ああ、今聞いたよ。
宮島直子 そっか。まあそういうことだから、田中君、私達を温かく見守ってね。
田中 おめでとう。
川崎 …。
宮島直子 職員室の用事は済ませたの?
川崎 …。
宮島直子 どうしたの?
田中 川崎?
 
 川崎、宮島直子の手を握る。
 
宮島直子 ヒロシ?
 
 川崎、宮島直子にキスをする。
 
宮島直子 ちょ…。うっ。
 
 川崎、キスの仕方を知らないがとにかくめちゃくちゃでがむしゃらなキスをする。
 
宮島直子 ちょっと…。
 
 宮島直子、抵抗する。
 川崎、手を握ったまま、キスを止めようとしない。
 
田中 川崎。
 
 川崎、宮島直子のおっぱいに触る。
 
宮島直子 やめろよ。ちょっと、やめて、お願い。
田中 川崎ぃ。
 
 川崎、宮島直子の両腕をがっしり抑え宮島直子が動けなくする。
 
宮島直子 やめろ。離して。離せよっ…。
 
 川崎、宮島直子の口を抑える。
 宮島直子、ワーワー言ってる。
 
川崎 田中。
田中 川崎ぃ。
川崎 田中っ。
田中 川崎ぃ。
川崎 田中っ。
 
 田中、宮島直子のおっぱいに触る。
 
田中 川崎。
川崎 田中。
 
 宮島直子、ワーワー言ってる。
 
終わり
 
 
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