稲垣和俊戯曲集

戯曲集をここに。まさかのここに。

お隣さん、愛おくれ。(書きかけ、途中まで)

  

※なかなか書き終わんないので、書きかけですが上げます。続きかけたらちょこちょこ更新します。こうすべき、こうしたいだとか、途中までだけど感想とかありましたら教えてくださいませ。

 

「お隣さん、愛おくれ」

 

  冬。雪が降っている。夜の手前。

  

  部屋。

  カーペット、机、あればソファ、あればテレビ(なければ音響のみ)

  ベランダへのガラス戸、

  台所、舞台上でも舞台袖でも良い、

  ベランダと反対方向に玄関。

  机の上には、お菓子や服や、紙なんかが大量に、

  机の下にも、そこに乗りきれなかったとでもいうかのごとく、

  ソファがあれば、ソファの上にも、ちらほらと、

 

  女、男、玄関から、

 

女  入って、
男  すみません、おじゃまします、
女  あ、暖房、つけっぱだ、ああ、つけっぱで出ちゃった、あ、上着
男  ああ、いえ、すみません、
女  座って、
男  あ、どうも、
女  散らかってるけど、
男  いえいえ、そんな、
女  え、と、お茶とハーブティどっちがいい?
男  いえ、もうそんな、大丈夫ですから、
女  だって、飲み物ぐらい出させてちょうだいな、お茶とハーブティしかないけど、いや、水道水でよければ水という選択肢もあるけど、
男  お茶ってお茶ですか。
女  お茶はお茶ね。
男  ハーブティって、
女  ああ、そっかそっか、ハーブティもお茶ね、だから、お茶は、その、緑茶、ハーブティと緑茶と、水道水、水道水飲む派?
男  ええ、飲みますね、水道水、朝起きたら、
女  ああ、飲む派、じゃあ、いや、じゃあ、って、水道水はないわね、お客さんに、水道水はないわ、お茶とハーブティどっちがいい?あ、お茶は緑茶ね。
男  あ、じゃあ、
女  あっ、そうだそうだ、あれだ、あれもあった、プロテインプロテインもあったんだ、いっぱい買ったの、プロテイン、細マッチョになれるって通販で売ってて、結局全然飲んでないんだけど、プロテイン、いいじゃない、プロテインにしなよ、水で溶かすやつ、
男  ああ、ええ、じゃあ、プロテインで、
女  ちょっと待っててね、最高のプロテインつくったげる。

 

  女、台所へ、

 

女  テレビね、
男  はい、
女  見たかったらつけてね、リモコンあるから、その、床、床のどこかにあるから、床 っていうか、地面、地面じゃないか、フローリング、そう、フローリング、フローリング?カーペットのどっか、多分、机の下あたりのカーペットのどっか、
男  ああ、机の下、
女  えっ、ない、リモコンない、
女  いつも地面に置くの、地面ていうか、フローリング、フローリングていうか、カーペットのどっか、机の上に置いてたら、分からなくなっちゃうから、あれ、ないね、
男  机の上、
女  机の上には置かないの、私、絶対、机の上には置かないの、主義なの、机の上にリモコン置かない主義なの、ほら、だって、机の上って、どんどん物たまっていっちゃうじゃない、だからリモコンすぐどっかいっちゃうのね、リモコンなくなると、ほら、ご飯食べながらテレビでもゆっくり見ようかって時にね、リモコンないと、あれじゃない、ものすごく、胸が、グワングワンするでしょ、もう、すごくグワングワンするから、リモコンなくなると、あああ、てなるから、なくならないようにリモコンは地面に置くようにしたの、私、地面ていうか、フロ、カーペットのどっかに。
男  でもパッと見た限り、地面の上にはなさそうですけど、
女  机の上にはないの、絶対に、机の上にはないから、
男  あっ、いや、そうですか、
女  えっ、テレビ、ああ、もう、いいかな、テレビ、見たい、そんなに見たい感じ?
男  いやいや、そんなには見たくないですよ、はい、大丈夫ですよ、
女  そう。じゃ、ちょっと諦めよう、こういうのって諦めたら出てくるのよね。
男  そうなんですよね。

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  鍵は諦めきれないもんねえ、
男  多分会社で着替えた時落としたんじゃないかと思ってるんですけど、

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  ごめんなさいね。
男  あっ。何が。
女  ハーブティ。
男  ハーブティ、ハーブティ、なんですっけ。
女  ほら、だって私、おかしいの、うふふ、笑っちゃう、私、ハーブティてティなのに、お茶なのに、お茶とハーブティどっちがいいって、ふふふ。
男  ああ、いや、それは、なんか、ね、そういうのは、ねえ、
女  私、ハーブティてお茶って感じじゃないのね、お茶じゃなくて、ティなのね、それで私にとってお茶って言うのは冬は緑茶で夏は麦茶なの、なんかお茶って言うのは、もう、そういうもんだって生まれ育っているのね、ウーロン茶はウーロン茶て言うし、そば茶はそば茶て言うし、さんぴん茶さんぴん茶て言うし、さんぴん茶なんて買ったことあったっけ、とにかくお茶って言うと緑茶か麦茶なのね、それを、私、何にも考えずにお茶とハーブティて、うふふ、おかしい。
男  ええ、でも分からなくはないですよ、僕の実家はウーロン茶だったんで、お茶って言うとウーロン茶かなあ、みたいな、思いますよ。
女  え、ウーロン茶、飲みたかったですか?
男  いや、ウーロン茶は特に飲みたいってわけではなかったんですけど、実家がウーロン茶だったんで。
女  え、実家がウーロン茶。
男  はい、え、なんです。
女  へえ、実家はウーロン茶だったんですか。
男  はあ。
女  あっ、実家が、ウーロン茶、ということね。
男  えっ、ええ、ええ、はあ。

 

  女、プロテインをシャカシャカしている。

 

女  変ね。
男  え、あ、変ですか。
女  変よ。
男  え、何がですか?
女  あなたのこと何も知らないのにあなたのためにプロテインを振っている。
男  それは、変ですね。
女  何をしてらっしゃる方なの?
男  何をと言うと仕事でしょうか、
女  そうね、仕事をしてるなら。
男  なんと言いますか、金属に色を印刷する仕事をしてるんですが、企業用の機械とかに、触るな危険とか、そういう注意書きみたいなのが多いですかね、黄色とか黒とか赤を一色一色塗っては焼いてって、まあそんな仕事ですね、
女  なんだかよくわからない仕事ね、
男  まあ、簡単に言うと金属に文字とかマークとか印刷する仕事ですね、はい。
女  へえ、そんな仕事もあるんですね、
男  まだでも働き始めてあれなんですが、半年ぐらいなんでペーペーなんですが、
女  引っ越してきたのもそれぐらい?
男  ええ、そうですね、就職決まってからなので。
女  じゃあ、結婚するんだ、
男  ああ、いや、そうですね、そうしようと思って就職したんですけどね、ああ、はい、ええ、どうでしょう。
女  結婚しないの?
男  いや、するんですけどね、ええ、そうしようと思って就職したんですから、ええ、そうなんですけどね、うーん、
女  ん、どういうこと?
男  いや、だから、結構いいとこ、いや、 プラプラしてた割には結構いいとこ就職できたんですよ、ボーナスいっぱい出るし、まだもらってないけど、いっぱい出るって噂だし、はい、はい、だから、まあ、そうなるよなあ、ていうか、え、もう、いいんじゃないですかね、
女  え、あ、あ、忘れてた。
男  忘れますか、
女  なんか、もう、ほら、そういう手に、いや、腕になってたわ、そういう、腕、プロテインを振る腕に、この腕はそういうもんだって、ほら、プロテイン振るのがスタンダードなんだって状態、プロテイン振るのが一番しっくりくる状態、みたいな、分かる?
男  あまり分かんないですね。
女  うん、まあ、そうね、え、どうしよう、お客さんにプロテインを出すの初だから、人生初だから、その、いつもは私、この容器でそのまま飲むんだけど、こういうのは、どうなんだろ、違うちゃんとしたコップに入れたほうがいいかな、
男  いいですよ、そのままで、
女  そう、いいかな、じゃあ、はい、どうぞ、
男  ええ、はい、どうも。
女  ごめん、やっぱり気になる、
男  え、そうですか、
女  コップで出させて、
男  いや、いいですよ、このままで、
女  ダメなの、私、気になっちゃうから、コップで、ね、うん。
男  はあ。
女  あれ、あ、もう、あああ、
男  え、どうしました、
女  見て、これ、最悪、ほら、ほらほらほらほら、
男  ええと、コップ、
女  洗わないの、コップ、全然洗わないの、ね、思わない、ね、水とかお茶とかジュースとかもう、いろいろ飲むんだけど、洗わないで、置いてくの、私が洗うと思ってるの、ね、思わない、一緒に住んでる人に影響がかからないように放置してるならいいんだけど、影響かけてくるの、私からしたらね、雑菌て言うの、ちょっとぐらい雑菌なんか、むしろ水とかお茶入れたコップなら、さらっと水ですすいでもう一回使えばいいのに、雑菌とかもね、免疫的に、あんまり洗いすぎるのも良くないって言うか、ね、でも、ダメなのね、一回一回綺麗なのじゃないと気が済まないの、そのくせ、洗わないの、もう、
男  えっ、すみません、誰かと一緒に住んでるんですか?
女  えっ、そうよ、えっ、知らなかった?それでね、逆にこっちが皿洗わなかったりすると、なんで洗ってないんだって、プンスカプンスカ、もう、本当に、ね、人にあーだこーだ言う前に自分がきちんとしなよって、ね、思わない?
男  えっ、旦那さんとかですか?
女  ん、いや、旦那さんとかではないね、一緒に住んでる子、もう、本当に、でも大丈夫、こういう時ね、洗わないの、向こうが洗うまで、一切洗い物しないの、そしたら、向こうがいつの間にか洗ってるてわけ、それでも洗わない時は、もう、言うしかない、ストレートにズバッと言うしかない、ね、だから、絶対に洗わない、私、絶対に洗わないから、あなたも二人暮らしならそういうのあるでしょ、
男  そうですね、でも僕は怒られる方ですかね、
女  ああ、あなた、そっち側、まあでも、男の人って大抵そうかもね、昔だったら洗い物なんて女の仕事だって考えだったんだろうけど、今は、女も働いてるものね、大抵、洗い物なんてお前の仕事だなんて、自分一人の稼ぎでやっていけないのに言えないわね、大抵、

 

  女、いつの間にやらプロテインをシャカシャカしている。

 

でも大抵備わってないから、その、洗い物をしようとする機能が、男性には、大抵の話よ、みんながみんなってわけじゃなくてよ、その、機能が、洗い物をしようって本能が、ね、備わってない人が多いから、怒られるのは男性の方が多いのよね、きっと、そりゃ、女の子は女の子らしく、男の子は男の子らしくって育てられてきたんだから、大抵は、男の子らしく外で遊びなさいとは言っても、男の子らしく洗い物をしなさいとは言わないもの、育まれてないのよ、洗い物をする機能が、だから、まあ、そうかもね、でも時たま、女性の方でもその機能が全然備わってない人がいるわけ、それはあの子、同居人、で、なんだっけ、あれ、また振っちゃってた、そう、これ、これをコップに入れようとして、でもコップが全然なくて、まあ、洗えばいいんだけどね、嫌じゃない、負けたみたいで、
男  いや、いいですよ、本当に、その容器のままで、
女  待って待って、あるっちゃあるの、ええと、どこだったかな、あっ、これだこれだ、ちょっと小さいけど。

 

  女、おちょこを持ってくる。
  プロテインをおちょこに注ぐ。

 

男  なんて言うか、ウケますね、おちょこでプロテインは。
女  まあ、ちょっと変わってるけど、風情があっていいでしょ、風情って言うの、こういうの。
男  あ、おいしいです、プロテイン
女  あ、どうぞどうぞ、
男  あ、どうも。
女  変ね、
男  いや、でも、おいしいですよ、プロテイン
女 そうじゃなくてね、なんか、こうゆうの、初めて、なんか、こうゆう、親切、なのかな、なんだか、心がすわっとするわ。
男  ああ、いや、ほんとにありがとうございます、寒かったんで助かりました、
女  あ、寒かった、ごめん寒かった、
男  あ、外がですよ、外が寒かったってだけで、今は寒くないですよ、
女  でも寒かったんなら、やっぱり、熱いお茶の方が良かったよね、あ、お茶って緑茶ね、
男  いや、全然、プロテインで全然あったまりましたんで、
女  プロテインであったまるなんてことないでしょ、
男  いや、気持ち的に、親切な心的に、
女  やっぱり沸かすわ、
男  大丈夫ですよ、プロテインあるんで、
女  いや、なんかダメなの、私がダメなの沸かさせて、

 

  ピンポーン。

 

女  えっ。あっ、えっ、どうしよう、

 

  ピンポーン。

 

女  ごめん。
男  えっ、なんですか、
女  しっ、ちょっとごめん、ちょっとここにいて、

 

  男、ベランダに連れて行かれる。

 

男  えっ、なんで、

 

  ピンポーン。

 

女  はあい、ちょっと待ってね、ちょっと待ってね、

 

  女、玄関へ、靴を靴箱かなんかに隠し、ドアを開ける、

 

女2  遅くない、寝てたの、
女  なんだ関ちゃんか。
女2(以下関ちゃん)  なんだとは何よ。
女  あの人かと思っちゃったじゃない、インターホンなんて鳴らすから。
関ちゃん  そう、もう、最悪、最悪なの、鍵失くしちゃったの、もう最悪、
女  え、関ちゃんも鍵無くしたの、
関ちゃん  なにこれ、プロテイン、おちょこで飲んでんの。
女  あ、中田山さーん、
関ちゃん  ん、

 

  男、(以下中田山)出てきて、

 

関ちゃん  誰?
女  中田山さん、お隣さんの。
中田山  どうも。
関ちゃん  なんで。
中田山  あっ、
女  中田山さんも鍵を失くしちゃったの、外で寒そうに待ってたから、家で待てばって、
中田山  あっ、はい、おじゃましてます。
関ちゃん  鍵失くしちゃったの、
中田山  はあ、そうなんです、
関ちゃん  私と同じじゃん、鍵失くしたピーポーじゃん、
中田山  あっ、は、そうですね、
関ちゃん  いいじゃんいいじゃん、奇遇じゃん奇遇じゃん、まあまあまあ、いっぱい飲みましょうや、
中田山  あっ、いや、僕はプロテインがあるので、
関ちゃん  いやあ、アタシてっきり、依子さんの男かと思っちゃった、
女(以下依子)  何言うの、そんなわけないじゃない、
関ちゃん  だって、依子さんってさあ、あら、コップない、まあいいか、缶のままで、はい、
中田山  あっ、いや、僕は、
関ちゃん  いいじゃんいいじゃん、飲みな飲みなって、
中田山  あっ、ええ、どうも、
関ちゃん  じゃ、乾杯、
中田山  乾杯。
関ちゃん  はー疲れた、あ、依子さんも飲む?
依子  いや、私は、お茶飲むから、(お湯を沸かす)
関ちゃん  え、でも、コップないよ、洗わないと、

 

  間。

 

関ちゃん  あっ、だからおちょこで飲んでたのか、プロテイン、ええと、あれ、リモコンないね、
依子  そうそう、さっきもね、探してたの、
関ちゃん  あっ、あった、(机の上のどこかから見つける)
中田山  あっ、

 

  その時やっているテレビ番組が流れる。

 

依子  机の上に、あったのね、

 

  テレビ番組のチャンネルが変えられていく、

 

関ちゃん  あんまなんもやってないね、中田山さんは、何やってる人なの、
中田山  えっと、
依子  金属を印刷する仕事ですって、そんな仕事あるのね、
関ちゃん  どういうこと、金属を印刷、
中田山  あっ、いや、
関ちゃん  何、紙に、こう、金属がボコって、なるみたいなこと、
中田山  金属にです、金属に、金属に色を塗って、焼いて、こう、定着させる、みたいなことです、
関ちゃん  職人さんじゃん、
中田山  はあ、まだペーペーペーですが、
関ちゃん  依子さん、何、金属を印刷て、
依子  え、私そんなこと言った?
関ちゃん  言ったよ、言ったよ、ねえ、
中田山  ああ、どうでしょうか、
関ちゃん  えっ、言った言った、絶対言ったよ、
依子  言った言った、言ったでいいよ、
関ちゃん  えー、言ってない感じになってんじゃん、全体的になんか、言ってないのに私が聞き間違えた感じになってんじゃん、じゃんじゃんじゃん、
依子  どうでもいいでしょうにそんなこと、
関ちゃん  確かに。確かにそんなことはどうでもいいね。

 

  テレビ番組のチャンネル、変えられていく。

 

関ちゃん  あー、お腹空いた。なんもやってないな、
依子  やってないなら消せば。
関ちゃん  だから言ってんじゃん、ついてるだけで安心するの、なんも見るものなくても流れていると安心するの、ああ、家に帰ってきたって感じがするの、テレビってそんなもんでしょ、ねえ、
中田山  ああ、まあそうでしょうかね、
関ちゃん  えっ、中田山さん、結局どうするの、鍵なかったら帰れないよね、
依子  彼女さんが帰ってくるんですって、
関ちゃん  あっ、彼女、一緒に住んでるんだ、
中田山  ああ、はい、いつもこの時間帯には帰ってるので、もう、あのう、大丈夫です、外で待ちますんで、
依子  ダメダメ、雪降ってるんだから寒いじゃない、
関ちゃん  そうだよそうだよ、遠慮しないで、凍え死んじゃうよ中田山さん、中田山さんて言いにくいね、下の名前は。
中田山  俊彦です。
関ちゃん  俊彦、中田山俊彦、なんだか珍しいのか普遍的なのか判断しづらい名前ね。
依子  どうでもいいじゃない、そんなこと。
関ちゃん  俊彦、中田山俊彦、なーかーたやまっ、としひこ、
中田山  えっ、なんですか?
関ちゃん  なかーたやまー、とーしーひこっ、
中田山  えっ、なんですかこれは、
依子  やめなさい、困惑してるじゃない。
関ちゃん  なかなかなかー、たやま、としとしとしーひーこーひーこー、
中田山  えっ、怖い、すみません、怖い、
依子  やめなさい、怖がってるじゃない、
関ちゃん  ごめん怖かった?
中田山  えっ、えっ、なんなんですか、
関ちゃん  名前遊びだよ名前遊び、昔やらなかった?
中田山  やらなかった、そんな遊び知らない。
関ちゃん  え、知らない、名前遊び、今流行ってるの、マイブーム、
依子  テレビ見ないなら消せば、
関ちゃん  りこりこりこ、りこりこりこよー、りこよーよー、よーよーりりりーかわらぐちー、かわらかわらかわら、かわーらりー、

 

  依子、テレビを消す。

 

関ちゃん  あっ、

 

  依子、リモコンを窓の外に投げる。

 

関ちゃん  あっ、
中田山  ええっ、
関ちゃん  何してるの、
依子  テレビなんていらないわ、テレビなんて見ないもの、朝のニュースしか、それか晩御飯の時にたまに見るくらいだもの、ね、テレビなんていらないでしょ、朝、仕事に行く前に天気予報と時間を見ているだけだもの、テレビなんていらないわ、これで、リモコンをいちいち探さなくてよくなったわ、本体も粗大ゴミに出しましょう。
関ちゃん  何言ってるの。
依子  思ったことそのまま言ってるだけよ。
関ちゃん  お湯、沸いてるよ。あっ、コップないのか、
依子  洗ってよ。コップ、洗ってよ。
関ちゃん  リモコン探してきてよ、
依子  コップ、洗ってよ、
関ちゃん  分かった、リモコン探してきてよ。
依子  ごめんなさい。

 

  依子、はけようとするところへ、

 

関ちゃん  依子さん、ご飯は?
依子  まだ作ってないの、
関ちゃん  作ってよ、お腹空いた、早く作ってよ、
依子  リモコン探さないと、
関ちゃん  一瞬で探してきて、一瞬でリモコン探してきて、一瞬でご飯作って。
依子  コップ、洗ってね。
関ちゃん  はいはいはいはい、洗いますよ洗いますよ。

 

  依子、はける。

 

関ちゃん  としひこ、なかたやま、にゃかたやまとしひこ、にゃきゃたやま、ちょしひこ、きょひひこ、きょひこやまなかたやま、なかたまやひこちょし、ひこたまやちょしふぃこ。
中田山  コップ洗わないんですか、
関ちゃん  ちょししこ、しこたやまやまひこ、やまひこやまやまひこ、
中田山  うわー、会話にならない。
関ちゃん  洗ったほうがいいかなやま、洗いたくない気持ちもあるひこ。
中田山  洗ったほうがいいでしょ、怒ってたじゃないですか、すごく、そもそもコップ洗わないあなたが悪いんでしょう。
関ちゃん  あなたって誰ひこ。
中田山  あなたはあなたですよ。
関ちゃん  名前で呼んでやま、あなたじゃあ分からないひこ。
中田山  ええと、関さん、
関ちゃん  関さんとか、関さんとかじゃないんだけど、関ちゃんなんだけど、関さんて何、関ちゃんなんだけど、
中田山  関ちゃん。
関ちゃん  何。
中田山  あ、なんだっけ。
関ちゃん  コップのことだよね、
中田山  関ちゃんがコップを洗わないから、依子さんが怒っているんでしょう。
関ちゃん  依子さんはね、最近いつもこうなのね、ちょっとしたことですぐ怒るのね。
中田山  あなたがコップ洗わないからでしょう、いや、関ちゃんが、
関ちゃん  さて中田山俊彦に問題です、私は何故コップを洗わないんでしょうか。
中田山  洗いたくないからでしょう。
関ちゃん  ブッブー、私が彼女を養っているからです、私が彼女に食わしてやってるからです。コップぐらい洗えやって話なのです。
中田山  あなたたち二人はなんですか、どういった関係なんですか、
関ちゃん  難しい質問です、恋人以上友達未満といったところでしょうか、
中田山  付き合ってるというわけですか、
関ちゃん  付き合ってるとかではありません、一緒に住んでるだけです、ただ、依子さんが怒れば怒るほど、私が興奮しているというのは事実です。
中田山  どういうこと、
関ちゃん  中田山俊彦、依子さんが帰ってきて、私とあなた中田山俊彦がキスしていたらとても怒るだろうね、キスをしようか、中田山俊彦、
中田山  え、いや、それは、えええと、
関ちゃん  ジョークジョーク、本気にしないで、中田山俊彦。
中田山  ちょっと、なんなんですか。からかわないでくださいよ。
関ちゃん  からかうとは何。私が今の言葉をからかいじゃなく本気で言っていたとして、中田山俊彦が困った様子を見せた結果、ジョークジョークと冗談にしてやったとしてもこれはからかいでありますか。
中田山  ええ、いや、それは、からかいではありませんか。すみません。
関ちゃん  分かればいいひこ。
中田山  えっ、本気で言ってたんですか。
関ちゃん  私はいつだって本気さ。
中田山  えっ、いや、それは、ですね。
関ちゃん  ジョークジョーク、本気にしないで、中田山俊彦。
中田山  もう、からかわないでくださいよ。
関ちゃん  からかわないでという中田山俊彦の言葉にはからかいであって欲しくない気持ちとと、からかいであってよかったという安堵が渦巻くのであった。
中田山  ちょっと、僕を怒らせようとしてます?
関ちゃん  何をするの。

 

  中田山、台所に行って、

 

中田山  僕は怒りませんよ。自分を怒らせないための制御パーツをぎんぎんに改造して生きてきたんですからね。
関ちゃん  洗わなくていいのよ、あの人が洗うんだから。
中田山  放っておいてください、僕は洗いたくて洗いたくて、しょうがないんです。洗剤はどこです。
関ちゃん  洗剤は、あの人が持ち歩いているの。
中田山  あの人が持ち歩いてる。
関ちゃん  そうそう。あの人がね。
中田山  あの人ってのは誰です。
関ちゃん  依子さんに決まっているじゃない。
中田山  なんで。人に洗えって言ってるのに、なんで洗剤持ち歩くの。
関ちゃん  さあ、洗って欲しくないんじゃない。
中田山  意味が、分かんない。
関ちゃん  それか、洗うなら自分で洗剤買ってこいってことか、
中田山  怖くなってきた。
関ちゃん  え、なにが、
中田山  なんか、変、じゃない。
関ちゃん  あの人が変なのさ、私は変じゃないさ。
中田山  いや、洗剤、買ってきますよ。
関ちゃん  ダメダメ、洗わなくていいんだって。いつか誰かが洗うんだから。
中田山  いつかっていつです、誰かって誰です。
関ちゃん  いつかはいつか、誰かは誰か。
中田山  正直ですよ、
関ちゃん  でもおそらく依子さんが洗うんだろうけど、
中田山  正直ですね、
関ちゃん  うん、
中田山  僕は今すぐ帰りたい、いや、帰れないんだけど、鍵ないから、でも、今すぐ帰りたい、自分の部屋に、
関ちゃん  鍵ないんでしょう。
中田山  鍵ないんですけどね、鍵なくてもですね、この部屋で待ってる、いや、待たせてもらっているのが、なんだか、とても、あれですね、こう、ここにいるのが、ですね、
関ちゃん  窮屈、
中田山  そうじゃないんですけどね、いや、そうなんですけどね、いや。このまま帰れない気もするわけですよね、なんか、だって、お隣さんだし、いや、なんかそういうの関係ないかもだけど、だって、お隣さんなんだし、いや、だから関係ないんだけど、せめてですね、せめて、コップを洗わせていただきたい、洗わさせてください、コップを。
関ちゃん  そんなに、そんなに洗いたいか。コップを。
中田山  買ってきますよ。コップを。
関ちゃん  コップを。
中田山  あ、違った、洗剤を。買ってきますよ、洗剤を。

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  えっ。

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  えっ。あっ、うーんと、そうか、ちょっと。
中田山  なんですか、
関ちゃん  しっ、ちょっとごめんね、ちょっと、ね、ここにいて、ね。ちょっと。

 

  中田山、ベランダに連れて行かれる。

 

中田山  えっ、なんで、

 

  ピンポーン。

 

関ちゃん  はいはーい、ちょっと待ってね、ちょっと、待ってね、

 

  関ちゃん、玄関へ、

 

関ちゃん  あら。
まりも  あ、すみません、ええと、
関ちゃん  ああ、中田山さん、
まりも  そうです、そうです、隣に、一緒に住んでる。
関ちゃん  あがって。
まりも  あ、いや、私、迎えに来ただけですので、
関ちゃん  いいからいいから、せっかくだから、ご飯食べよ、
まりも  いや、でも、
関ちゃん  もーういいよー。

 

  関ちゃん、ベランダへ。

 

関ちゃん  もういいよ。
中田山  鍵、鍵、
関ちゃん  あ、そっか。ごめんごめん。

 

  まりも、ゆっくりはいってくる。

 

まりも  おじゃましまーす。

 

  中田山、でてくる。

 

まりも  あっ。
中田山  寒い寒い。
関ちゃん  ごめーん。
中田山  あっ。
関ちゃん  よかったね、お家に帰れるわね。
中田山  ああ、うん、
まりも  なんで、ベランダ。
中田山  いや、ん、なんで。
まりも  うん、なんで。
中田山  え、なんでだろ、なんで。
関ちゃん  なんで、うん、そうね、
まりも  なんで、ベランダ。
中田山  え、なんで、
関ちゃん  いや、なんで、うん、なんでねえ、なんでなんで。
まりも  かくれんぼ、してたんですか。
中田山  いや、してないよ、かくれんぼ。ねえ。
関ちゃん  いや、うん、でもかくれんぼみたいなもんだよね、
中田山  え、なにそれ。してないよ、かくれんぼ。
まりも  え、でも、隠れてたよね、
中田山  いや、うん、でも、連れてかれて、この人に、なんで。
関ちゃん  まあまあまあ、座りましょうや、落ち着けましょうや、腰を。
まりも  え、はあ、でも、
中田山  あ、でも、帰れるわけだし、
関ちゃん  いや、でもあれじゃん、縁じゃん、偶然、お隣さん同士こういう風に会う機会に恵まれたわけなのだから、依子さんもご飯作ってくれるって言うし、ねえ、
まりも  はあ、依子さん?
中田山  いや、でもね、まりもちゃん、
まりも  うん、何、
中田山  疲れてないの、まりもちゃん、帰ったばっかで、
まりも  え、大丈夫、ご飯食べるだけ、なら、
中田山  あ、うん、そっか、そうだね、
関ちゃん  まりもちゃんって言うの。
まりも  あ、まりって名前なんですけど、なんか子供の頃からずっとまりもって言われてて、それが、なんかずっとって言う、はい、
関ちゃん  私、関ちゃん、関ちゃんって呼んでね。
まりも  え、はあ、関ちゃん。
関ちゃん  ビール飲む?
まりも  いや、ビールはちょっと、苦味が、
関ちゃん  あ、ビールだめなの、
まりも  はい、苦味が、苦手で、
関ちゃん  じゃあ、そうか、コップないんだ、今、あ、プロテインならあるけど、
まりも プロテイン
関ちゃん  中田山さんの飲みかけだけど、
まりも  なんでプロテイン
中田山  いや、なんか流れで、
関ちゃん  プロテインはないか、プロテインはないない、
まりも  いや、プロテイン、飲みます飲みます、
関ちゃん  え、でもプロテインだよ、
まりも  いいです、いいです、せっかくなんで、こんな機会なかなかないし、
関ちゃん  そう、、はい、じゃあ、これ、
まりも  え、なんです、これ、
関ちゃん  いや、コップがなくてね、
中田山  あ、
まりも  ああ、でも、この、なんだ、これ、なんだ、
中田山  ん、シェイカー、
関ちゃん  容器、
まりも  あ、容器、
中田山  シェイカーじゃないか、
関ちゃん  いや、でもシェイカー、うん、
まりも  まあ、この、シェイカー、振るやつで、そのままで、
関ちゃん  いやいやいやいや、せっかくだから、せっかくなんだから、さ、はい、こんな機会なかなかないんだから、
まりも  はあ、
関ちゃん  おっとっと、
まりも  変な感じ。
関ちゃん  じゃあ、あれ、これ、私の、
中田山  あ、どっちだっけ、
関ちゃん  まあいっか、かんぱーい、
まりも  はあ、
中田山  かんぱい。
関ちゃん  ささ、どうぞどうぞ、
まりも  あ、どうもどうも、
関ちゃん  どう、おちょこプロテイン、略してオチョテイン。
まりも  これは、あれですね、意表をつく甘ったるさ。
関ちゃん  意表をつく甘ったるさ、ちょっと頂戴、
まりも  あ、はい、
関ちゃん  ついで。
まりも  はい、
関ちゃん  おっとっと、
まりも  おっとっと、
関ちゃん  うん、何、プロテイン、だね、ちびっと、だけ。の。うん、
まりも  そうなんですけどね。
関ちゃん  うん、さんきゅう。まま、どうぞどうぞ、
まりも  いや、これはこれは、どうもどうも。
中田山  あのう、
まりも  壁の色が違いますね、
関ちゃん  ん、あ、そうなんだ。
まりも  私たちの方は暖色系っていうの、部屋で違うんですね、
関ちゃん  へー、ん、何、
中田山  俺たち、やっぱこれ飲んだら帰りますよ、
まりも  え、なんで、
中田山  だって、明日も早いし、帰れるわけだし、
まりも  でも、ご飯食べるだけでしょ。
中田山  そうだけどさ、
まりも  何、
中田山  いや、依子さん、帰ってこないし、
まりも  依子さんって、
関ちゃん  中田山さんはさ、
中田山  え、
関ちゃん  中田山俊彦はさ、
中田山  え、はい、なんですか、
関ちゃん  コップを洗うんじゃなかったの。
まりも  コップ、
中田山  いや、それは、それは自分で洗ってくださいよ、
まりも  コップって、
関ちゃん  だって言ったじゃん、コップ洗わさせてくださいって、
中田山  いや、言いましたけど、
まりも  えっ、言ったんだ、
中田山  言いましたけどね、それは、だって、さっき、そう思ったっていう、今は、もう、なんか、
まりも  え、どういうこと、
中田山  いや、いろいろあって、
関ちゃん  洗ってくれるんだーって、思ったのに、だって、洗わさせてくださいって言ったんだもの、洗ってくれるんだー、ありがたー、って、思ったのに。
まりも  私、洗いましょうか、
関ちゃん  いいの、いいの、気にしないで、
まりも  え、だって、
関ちゃん  中田山さんがね、言ってきたんだから、洗わせてください、お願いしますって、
まりも  何その懇願。
中田山  分かりましたよ分かりましたよ、洗いますよ、洗えばいいんでしょうが、
関ちゃん  おおっと、なんだ、その態度、そんな態度取られるんなら洗って欲しくなんかなんかないね、
中田山  なんなんですか、洗うなって言ったり洗えって言ったり、
関ちゃん  洗えなんて一言も言ってなくない、そっちがお願いしてきたという事実を述べているわけだから、
中田山  あーあーあーあー、買ってきますよ、買ってくればいいんでしょ、コップを。

 

  中田山、洗剤を買いに行く。※靴に触れるか、

 

まりも  コップを、買ってくるの。
関ちゃん  あ、いや、洗剤、言い間違えただけだと思う、洗剤なくて、
まりも  洗剤、家にあるのに、
関ちゃん  あっ、そっか、そっちの家の借りれば良かったのにね、まあいっか。
まりも  間に合うかな、
関ちゃん  いいんじゃない、
まりも  あ、でも、ちょっと、

 

  まりも、玄関へ、
  しかし、すぐ、戻ってくる。

 

まりも  行っちゃった。
関ちゃん  素早い身のこなしね。
まりも  初対面ですよね、
関ちゃん  えっ、何が、
まりも  彼と、
関ちゃん  あ、中田山俊彦、初対面初対面、むしろ、今初めて会ったばっかだけど、
まりも  全然、初対面感ないですよね、
関ちゃん  あ、そう、かね、
まりも  あんな喋り方するんだって、思って、
関ちゃん  ふーん、
まりも  どうだっていいけど、
関ちゃん  え、
まりも  なんでコップで争いあってるんですか。
関ちゃん  別に争ってなんかないけど、
まりも  だって、初対面でコップを洗えとか洗うなとか、どういう状況っていう、
関ちゃん  あ、いや、それは、依子さんってのがいてね、その依子さんがコップを洗えって言うんだけど、私は洗いたくなくて、そしたら中田山さんがね、洗わさせてくださいってね、言ってきたわけよ、
まりも  うーん、
関ちゃん  ただそれだけのことなのよ、
まりも  ふーん、その、依子さんってのは、
関ちゃん  あっ、依子さんはね、同居人。
まりも  同居人。
関ちゃん  一緒に住んでるの。
まりも  ああ、親戚かなんか、
関ちゃん  いや、全然。
まりも  友達とかですか、
関ちゃん  友達とかではないね。
まりも  え、親戚とか友達とかではない人と同居してるんですか、
関ちゃん  そうなんだけどね、なんてったらいいのかな、同居人、ほんと、同居人としか、言えないみたいな、別に深く知り合いだったわけでもないし、気付いたら一緒に住んでて、
まりも  なんで。
関ちゃん  聞きたい?
まりも  聞いちゃいけないやつですか?
関ちゃん  聞いちゃいけないやつなんてないわよ、お隣さん同士で、
まりも  じゃあ、
関ちゃん  本当に聞きたい?
まりも  え、じゃあいいです、
関ちゃん  え、聞いてよ聞いてよ。
まりも  え、じゃあ、なんで。
関ちゃん  依子さんと私はね、ある人を共有していたのでした。
まりも  共有?
関ちゃん  その人は妻も子供もいるのでね、つまり、不倫ね、不倫相手としてね、私と依子さんは存在していたのでした、その人がね、ある日、この家に依子さんを連れてきてね、つまり、あれね、3Pね、3人プレイね、私たちは3Pをしたのでありました。そこから私たちは3Pに魅了されていくことになるのでありました。私が喘ぐのを依子さんが聞いている。依子さんが悶えるのを私が見ている。依子さんが興奮すればするほど私も興奮する、相手が気持ち良くなっているのを見ると私の方がって、気持ち良くなろうとする、私たちは自然と3Pがしやすくなるような生活に改善して行ったのね、改善っていうのかな、つまり、この関係を絶対に知られてはならない人がいる、あの人の奥さんね、知られてしまうとたいへんでしょ、だけどね、今となってはこの考えが間違っていたのかもしれないとも思うわ、私たちは、あの人の住んでるところも電話番号も、フェイスブックツイッターも知らない、知ろうともしなかったわ、そして、この部屋の鍵も渡さなかったわ、つまりこういうことなのね、物的証拠は一切残さない、これが私たちの根底に絶えずポリシーとしてね、なんて言うのかな、輝いていてね、奥さんにね、ばれるリスクを極限まで下げた状態と言いましょうか、あの人は時間的余裕さえ確保できればいつでもここに来て、ピンポーンと鳴らせばいい、そのために、依子さんには基本的に家にいてもらって、だけど私たちも生きていかないといけないからさ、私が働いて、というわけ、私たちの生活はこんな形を持ってしばらく続いたのだけれども、ある問題が浮上してね、容易に想像できることだけども、あの人が来なくなった、もう一年ぐらい来ていないのね、一ヶ月以上来ないこともあったし、かと思えば二、三日連続なんてのもあったから、分からない、一年はもう来ないという期間なのかどうなのか、だけど私たちはもしかしたら、と、思っていて、いや、でももう来ないんじゃないかとも感じていて、そして、もう来ないのだとしたら、私たちが一緒に住む理由なんて一つもないのに、私たちはこの生活を止められないでいる。もしかしたら奥さんにばれたのかもしれないし、ただ単に初めはこの関係を面白がっていたけど、それが普通になると飽きちゃったって、やーめーたっ、イーチぬーけたってことなのかもしれないし、だけどこの生活ももう終わりかけね、終わりなら終わりでいいんだけども、ね、そんな感じね、
まりも  なんだか、私には想像もできない世界が、隣の部屋で、こんな近くで、なんだか、ええと、すごく、私には、想像もつかない、
関ちゃん  軽蔑する?こんな関係?
まりも  軽蔑なんて、全く、全くなんだけど、え、だって、え、将来のこととか、考えないんですか?
関ちゃん  将来のこと?
まりも  え、だって、老後とか、いや、もちろん、このままってわけじゃないだろうけど、え、だって、結婚、とか、もしその人がずっと来てたとしても、だって、ずっと2人で暮らしていく、ってのは、え、分からない、え、なんか、いや、老後とか、
関ちゃん  老後?老後老後、老後か、老後って響き面白いね、老後って、
まりも  いや、そう、かね、
関ちゃん  老後老後、考えたことなかったね、
まりも  老後考えたことないの、老後、考えるでしょ、普通に、老後。
関ちゃん  どうしたの、そんなに老後って大事?
まりも  大事っていうか、だって来るんだから、いずれ、訪れるんだから、老後。生きてたら。
関ちゃん  かわいいね。
まりも  あ、え、ああ、なにが、
関ちゃん  かわいいかわいい、うろたえちゃって。
まりも  久しぶりに言われた、かわいいなんて、
関ちゃん  まりもちゃん、フルネームは?
まりも  早川まり、
関ちゃん  名前遊びって知ってる?
まりも  知らない。
関ちゃん  名前をね、使って、できるだけ、変えるの、でも、その名前からね、離れすぎちゃダメなの、
まりも  変える、
関ちゃん  早川まり、うーん、そうね、はやかわまり、ふやかわまり、ふやはわわり、
まりも  ふやはわわり、私、
関ちゃん  そうそう、まりもちゃんはふやはわわり、
まりも  ふやはわわり、あ、そういうこと、
関ちゃん  ふやしゃわやり、しゅやひゃわみゃり、みゃりみゃり、しゅーっやはーや、まーい、めーやっぱへーわまーい、
まりも  めーやっぱへーわまーい、早川まり、めーやっぱへーわまーい、なにこれ、私って、めーやっぱへーわまーい、ってこと、
関ちゃん  そうそう、そういうこと、
まりも  関ちゃんの名前は?
関ちゃん  私、私はね、関明子、
まりも  関明子、せきあきこね、せきあきこせきあきこ、

 

  関ちゃん、まりもにキスをする。

 

まりも  えっ、
関ちゃん  ん、
まりも  いや、
関ちゃん  ん、なに、
まりも  え、だって、
関ちゃん  ん、なに、
まりも  え、これは、どういう、
関ちゃん  なに、
まりも  どういう、こと、なのか、
関ちゃん  ダメ?
まりも  ダメ、ダメとか、いや、そういう、前に、
関ちゃん  ダメじゃないんだ、
まりも  なんで、
関ちゃん  なんで、
まりも  今、キスした、したよね、
関ちゃん  えっ、したかな、
まりも  キスじゃないの、今の、キスじゃないの、キスじゃなかったらなに、
関ちゃん  キスじゃなかったらいいの。
まりも  え、キスってなんだっけ、キスって、今のだよね、キスって、唇と唇をくっつけ合うやつですよね、
関ちゃん  ごめんごめん、したした、キスした、
まりも  なんで、
関ちゃん  なんでって、
まりも  なんでキスするの、
関ちゃん  キスなんて挨拶じゃない、
まりも  そんな、そんな、キスが挨拶だなんて、そんな、文化的な、なんだ、文化で、なんだ、育ってない、私、
関ちゃん  したくなったから。
まりも  したくなったらしてもいいの。
関ちゃん  ごめんごめん、したくなってもしちゃダメね、
まりも  したくなってもしちゃダメなの、
関ちゃん  ごめんごめん、落ち着いて落ち着いて、ささ、どうぞどうぞ、

 

  まりも、残っている、プロテインを一気飲みする。

 

関ちゃん  おっ、いったねえ、
まりも  ごめん、なんか、テンパりすぎちゃった。
関ちゃん  ごめんごめん、もうしないから、
まりも  もうしないんだ、
関ちゃん  え、して欲しいの、
まりも  いや、違う違う、して欲しくないんだけど、え、だって、分かんなくて、今、かなり、自分が、分かんなくて、え、だって、だってね、だって、こういうことされたらね、え、だって、やったーっ、もっとしてーて思うか、うわー、やめてー、最悪ーて、思うかどっちかじゃない、って思うんじゃない、うん、って思うんだけど、だって、でも、今、なんかどっちもないっていうか、いや、どっちもある、いや、待って、え、だって、もっとでかいのは、そんなことしちゃダメ、しちゃダメじゃんってこと、でもしちゃダメじゃんって思ってるってことはして欲しいって思ってるってこと、なの、か、
関ちゃん  なんでしちゃダメなの?
まりも  なんでしちゃダメ、え、だって、いや、私、そういう、でも違う、正直、嫌、とか、そういう、いや違う、違うだって、私には、彼氏が、恋人が、いるし、
関ちゃん 恋人がいるからダメなの?
まりも 恋人がいるからダメ、うん、そうじゃない、だって、恋人がいるんだもん、ダメじゃない、他の人とキスしたら、
関ちゃん  でも、私たち、女同士よ、
まりも  え、関係なくない、女同士だって、男同士だって、それは、あれじゃない、関係なくない、気持ちの問題なんだし、
関ちゃん  ん、なになに、気持ちの問題ってなに、
まりも  気持ちの問題は気持ちの問題だよね、好きだって思ってるか思ってないか、とか、
関ちゃん  好きだって思っているの?
まりも  それは、だって、分かんないんだけど、
関ちゃん  分かんないんだ、
まりも  分かんないよ、だって、今会ったばっかじゃない、
関ちゃん  分かんないんだ、
まりも  関ちゃんは、
関ちゃん  ん、
まりも  関ちゃんは好きだって思ったの?
関ちゃん  うん、
まりも  あ、いや、ええと、
関ちゃん  まりもちゃんのことね、好きだなーかわいいなーキスしたいなーって思ったの、だからキスしたの。
まりも  なんだか。
関ちゃん  なんだか、
まりも  なんだか、羨ましい、
関ちゃん  なにが、
まりも  例えばね、例えば、なんだか今日はチャーハン食べたいなーって思ってね、今日のお昼にチャーハン食べに行くことって、できる、と、思う、けど、なんだかこの人とキスしたいなーって思って、いきなりキスする、なんて、できなくない、て、思うんだけど、欲望にね、忠実、っていうの、だけども、忠実になっちゃいけない欲望てのがあって、だって、そうじゃん、この人むかつくなー、殺したいなーて思っても、殺したらいけないじゃん、だけど、その線引きは、人それぞれで、その線引きてのは、ここまでは忠実になっていい欲望、ここからは忠実になっちゃダメな欲望、っての、でも関ちゃんは、キスしたいと思ったらキスできる線引きで、私は、キスしたいって思ってもね、キスできない、線引きなのね、だからね、なんだ、羨ましい、気がする、
関ちゃん  コツをさ、教えたげようか、
まりも  コツ、
関ちゃん  勘違いしてるけど、私だって、そんな欲望に忠実なんてことないよ、全然、したいけど我慢してることだらけだよ、だけどね、こういうことやってみたいって思ったけど、でも、そんなことやったらなあって思うとき、ね、私は関ちゃんじゃあ、なあいって思うわけよ、
まりも  は?
関ちゃん  関明子じゃなくて、セフィアフィフォと思うわけよ、
まりも  セフィアフィフォ、
関ちゃん  まりもちゃんは、ホーマッカヒーアニャイだっけ、
まりも  名前遊び、
関ちゃん  私、セフィアフィフォで、あなた、ホーマッカヒーアニャイ、なんの問題もない、
まりも  ないかな、
関ちゃん  ないじゃん、
まりも  ないんだ、
関ちゃん  ないよ、ね、
まりも  え、ないか、本当に、

 

  関ちゃん、まりもに近付き、キスをする。

  依子、物音も立てずに入ってくる、

 

関ちゃん  あ、依子さん、
まりも  はうあわ、
依子  え、誰、
まりも  あ、これはこれは、あ、私は、あの、お隣の、中田山の、一緒に住んでる、
依子  ああ、彼女さん、中田山さんの、
関ちゃん  まりもちゃん、
まりも  まりもです、
依子  まりもちゃん、なんで、
まりも  なんで、なんで、でしょうか、
関ちゃん  なんか子供の時からずっとまりもちゃんて言われてるんだって、
まりも  あ、名前、はですね、本名はまりなんですが、なんか子供の時からすぐなんでもやりたがる子供だったらしくて、まりもーまりもーっていっつも言ってたらしくて、だからずっと、家族からまりもって言われてて、それを聞いた友達からもまりもってずっと言われてて、だからなんだかずっとまりもで、
依子  なんでコップを洗っていないのよ。
まりも  コップ、
依子  コップ洗ってねって言ったよね、なんで洗わないの、
関ちゃん  待って待ってよ、
依子  待たない、洗ってよ、
関ちゃん  洗わない。
依子  え、なんで、関ちゃんが使ったコップだよね、私が使ったコップ一個もないよね、なんで、関ちゃん洗わないの、おかしくない、
関ちゃん 待って待ってよ、おかしくないよ、洗剤ないんだもん、洗えないじゃん、
依子  洗剤ないわけないじゃない、
関ちゃん  ないもん、洗剤、ないから洗えないんだもん、見なよ、洗剤、ないから、

 

  依子、冷蔵庫から食器用洗剤を取り出す。

 

依子  あるじゃない。
関ちゃん  なんで冷蔵庫になんか入れてるの。
依子  この方が泡立つって関ちゃんが言ったんじゃない、
関ちゃん  言うわけないじゃん、意味分かんないよ、
依子  はい、ほら、洗剤あるんだから、はい、洗ってよ、早く、早く洗ってよ、
関ちゃん  洗わない。
依子  なんで、なんでよ、洗ってよ、
関ちゃん  あのさあ、コップを洗うタイミングってのがあるんだから、分かんないかなあ、依子さんのコップを洗うタイミングと私のコップを洗うタイミングは違うの、分かる、私のタイミングは今じゃないの、だから洗わないのただそれだけ、え、だって、今、まりもちゃん、来てるんだから、ねえ、
まりも  え、あ、はあ、
依子  まりもちゃん来ててもコップ洗えるよね、まりもちゃんとしゃべりながらコップ洗えばいいじゃない、え、できるよね、普通、その関ちゃんが言うコップを洗うタイミングっていつ来るの?昨日からずっと来てないじゃない、昨日から、一昨日から、ずっとそのタイミング来てないじゃない、え、つーか一緒に住んでるんだから、1人で住んでるんじゃないのだから、そのタイミングも合わせなきゃダメじゃない、合わせていかなきゃダメでしょ、ねえ、洗ってよ、早く、早く洗ってよ。
関ちゃん  洗わない。
依子  洗わない、ふーん、じゃあ、誰が洗うの、私は洗わないわよ。
まりも  あのう、私、洗いましょうか、
依子  なんでまりもちゃんが洗うの、おかしいじゃない、
関ちゃん  中田山さんが洗うって言ってたよ、
依子  だから、なんで中田山さんが洗うのよ、おかしいじゃない、
関ちゃん  おかしいのは依子さんだよね、
依子  はい?
関ちゃん  おかしいのは依子さんだって言ってんの。
依子  私のどこがおかしいのよ。
関ちゃん  おかしいよ、おかしすぎるよ、だってまりもちゃん来てるんだよ、初めてお隣さんが来てくれてるんだよ、なのになんでコップを洗えとかそんなどうでもいいことで怒られなきゃいけないのおかしくない、もっと、ハッピーにいこうよ、ハッピーな雰囲気醸し出してこうよ、
依子  あのねえ、関ちゃんがコップを洗えばみんなハッピーになるっての、関ちゃんがコップを洗えばね、
関ちゃん  だから、そうやってガミガミガミガミ言うから洗いたくなくなるんだっての、え、そんなにコップを洗え洗え言われて洗えると思う?もう無理じゃん、洗えないじゃん、私、え、どんな顔して洗えばいいの、私、どんな顔したら今コップ洗えるって言うの、
依子  コップを洗うのにどんな顔すればいいとかないから、ただただ普通にコップ洗えばいいだけなんだから、
関ちゃん  ただただ普通にコップ洗えなくしたのは依子さんだよね、私だって依子さんが洗え洗え言わなければただただ普通にコップを洗ってたよ、でもそれできなくしたのは依子さんじゃん、
依子  なに、私が悪いの、私がおかしいの、ねえ、私、おかしいかな、
まりも え、いや、全然、おかしくないと思いますよ。
関ちゃん え、じゃあ私がおかしいの、
まりも  いや、関ちゃんもおかしくないおかしくないよ、
依子  なによ、それ、
まりも  いや、だってどっちも言ってること分かるし、どっちの言い分も分かるし、そりゃあ、コップを洗わない関ちゃんは悪いけど、洗え洗えって言われて洗えなくなる気持ちも分かるし、だけど、誰かが洗わなきゃ、ずっとコップはそのままだって気持ちも分かるし、コップがずっとそのままだったら、ずっと飲み物をコップから飲めないわけだし、ずっと飲み物をコップから飲めなかったらさ、缶とかペットボトルとか紙パックとかから直接飲むしかできないとなると、やっぱり不便だしね、不便っていうか、だって、急に飲みたくなることもあるし、水とか、寝る前とか起きたあととか、ぐびぐびいきたくなることあるし、だから、私が言いたいのは、コップはいつでもすぐに使える状態の方がいいよね、って、ことで、つまり、だけどね、結局はいつかどこかで誰かが洗わなければいけないんだけども、いつかどこかで誰かが洗わなければいけないってことは、いつかどこかで誰かが妥協しなければいけないってわけ、ですよね?だから、二人とも洗いたくないとして、どっちかが妥協しなければいけないんだけど、どっちも妥協したくないって時に、あのー、あ、これは、どうなんでしょう、幸いなことにと言いますか、偶然のことにと言いますか、あのー、ね、いや、ほら、Aでもなく、Bでもなく、Cとして、Cとしての私が、えー、ここに、今ここに、ね、存在しているわけですよね、何故だか、奇跡的に、運命的に。あ、だから、この場合だけ、
依子  いや、それはおかしいでしょ、
まりも  それはおかしいんだけど、分かってるんだけど、だってだって、関ちゃんが洗うべきなのは、それはそうなんだけど、関ちゃんは、もう、あれだから、もうさ、洗えない状態入っちゃってるから、いや、分かってる分かってる、関ちゃんだって1時間、2時間もしたら洗ってくれるかもしれないって、私は信じてるし、分かってるつもりだし、そうであって欲しいと願っているし、ただ、今は洗いたくないんだよ、そう、今なのよ、今が問題なのね、だってだって依子さんは今洗って欲しいわけですよね、だけども関ちゃんは今洗いたくないわけだ、そう、問題は今ってことがはっきりしていて、今をどう乗り切るべきかってのが問題で、このまま洗え、洗わないを繰り返していてもずっと今が続くわけで、ずっと今が続いたってずっとコップは洗われないままなのね、だからこそ言ってるわけです、だからこそ、今だけ、今回だけ、ね、本当、今回だけ私が洗いますので、関ちゃんさ、次回からちょっと気をつけてもらってさ、コップたまらないように、さ、ね、ちょこちょことコップを洗うように努力しようよ、今だけ、本当、今回だけは、あのう、洗いますので、私が、と言いますか、洗わさせてくださいよ、いや、本当本当、あのう、お二人はゆっくりくつろいでいただいて、ほらほら、ソファに座っていただいて、ね、よーし、やるぞー、と、って、冷た、洗剤、冷たいよ、どういうこと、冷蔵庫に洗剤入れるといいって何情報ですか、テレビ、テレビ情報?、
関ちゃん  あ、テレビ、リモコンは?
依子  拾ってきたわよ、ほら、

 

  ピンポーン。

 

  間。

 

関ちゃん  中田山俊彦?
依子  ああ、そういえば、いないね、中田山さん、どこ行ったの?
関ちゃん  ああ、洗剤、買いに、
依子  洗剤?

 

  ピンポーン。

 

依子  まりもちゃんはいたって問題ないね、
関ちゃん  あ、そっか、まりもちゃんは別にいいんだ、
まりも  え、ちょっとちょっと、なんですか、別にいいって、
関ちゃん  別にいいんだもん、別にいいじゃん、

 

  ピンポーン。

 

 

続く、、