稲垣和俊戯曲集

戯曲集をここに。まさかのここに。

ロミオ ロミオ ロミオ

「ロミオ ロミオ ロミオ」
 
  ヂュリエット、眠っている。
 
私のロミオは繊細な美男子。
私のロミオはモンタギュー家。
私のロミオは巡礼様。
私のロミオは強い戦闘能力を兼ね備えている。
私のロミオは雄鷹。
私のロミオは命を顧みず、真実を追い求める
私のロミオは掴みどころの無い飄々とした生き様と冷酷な性格。
私のロミオはキントウンに乗れる。
私のロミオは小鳥。
私のロミオは菩薩。
私のロミオは夜。
私のロミオは自分のエゴや欲望を達成するために、的確に周囲を踊らせる明晰な頭脳を持つ。
私のロミオは左手が鬼の手。
私のロミオは右手に風穴。
私のロミオは鳩の翼被った鴉。
私のロミオは狼根性の子羊。
私のロミオは新撰組
私のロミオは超絶サイコパスイケメン。
私のロミオは夜叉。
私のロミオは絶対的神。
 
  ヂュリエット、起きる。
 
ローミオーー
 
1バルコニー→結婚
 
ヂュリ  おお 、ロミオ 、ロミオ !何故卿はロミオぢゃ !父御をも 、自身の名をも棄ててしまや 。それが否ならば 、せめても予の戀人ぢゃと誓言して下され 。すれば 、予ゃ最早カピュ ーレットではない 。
ヂュリ  名前だけが予の敵ぢゃ 。モンタギューでなうても立派な卿 。モンタギューが何ぢゃ !手でも 、足でも 、腕でも 、面でも無い 、人の身に附いた物ではない 。おお 、何か他の名前にしや 。名が何ぢゃ ?薔薇の花は 、他の名で呼んでも 、同じやうに善い香がする 。ロミオとても其通り 、ロミオでなうても 、名は棄てても 、其持前のいみじい 、貴い徳は残らう 。 … …ロミオどの 、おのが有でもない名を棄てて 、其代りに 、予の身をも 、心をも取って下され 。
ヂュリ お前を小鳥にしたいなア!したが 、餘り可愛がって 、つい殺してはならぬゆえ 、もうこれで 、さよなら !さよなら !ああ 、別れといふものは悲し懷しいものぢゃ 。夜が明くるまで 、斯うしてさよならを言うていたい 。
 
ローミオーー
 
2夜よ来い→悲しい知らせ
 
ヂュリ  驅けよ速う 、火の脚の若駒よ 、日の神の宿ります今宵の宿へ 。フェ ートンのやうな御者がいたなら 、西へ 西へと鞭をあてて 、すぐにも夜をつれて來うもの 、曇った夜を 。隙間もなう黒い帳を引渡せ 、戀を助くる夜の闇 、其闇に町の者の目も閉がれて、ロミオが 、見られもせず 、噂もされず 、予の此腕の中へ飛込んでござらうやうに。戀人は其麗しい身の光明で 、戀路の闇をも照らすといふ 。若し又戀が盲ならば 、夜こそ戀には一段と似合ふ筈 。さア 、來やれ 、夜よ 。汝の黒い外套で頰に羽ばたく初心な血をすッぽりと包んでたも 、すれば臆病な此心も 、見ぬゆえに強うなって 、何するも戀の自然と思ふであらう 。夜よ 、來やれ 、速う來やれ 、ロ ーミオ ー !速う來い 、やさしい 、懷しい夜の闇 、さ 、予のロミオを賜もれ 。ああ 、待つ間がもどかしい 、… …これ 、乳母 、何の消息ぢゃ ?
ヂュリ おお おお ! … …あのロミオの手でチッバルトを ?
ヂュリ おお 、花の顏に潛む蝮の心 !あんな奇麗な洞穴にも毒龍は棲ふものか ?面は天使 、心は夜叉 !美しい虐君ぢゃ !鳩の翼被た鴉ぢゃ !狼根性の仔羊ぢゃ !見た目は神々しうて心は卑しい !外面とは裏表 !いやしい聖僧 、氣高い惡黨 !
ヂュリ 何故殺した汝は 、予の従兄を ?チッバルトが殺したでもあらう我夫は生存へて 、我夫を殺したでもあらうチッバルトが死んだのぢゃ 。すれば 、嬉しいことばかり 、予ゃ何で泣くのぢゃ ?最前聞いた一言が 、その一言が 、チッバルトが死にゃったよりも悲しいのぢゃ 。「チッバルトは死なしゃれた 、そしてロミオは … …追放 ! 」 … … 「追放 」 … …其 「追放 」といふ一言がチッバルトを一萬人も殺してのけた 。チッバルトが死にゃったばかりでも可い程の不幸であったものを 。チッバルトがお死にゃった上に 、殿りに 「ロミオは追放 」 。追放と聞くからは 、父母もチッバルトもロミオもヂュリエットも皆々殺されてしまうたのぢゃ 。
 
ローミオーー
 
3初夜後→結婚の強制
 
ヂュリ 去うとや ?夜はまだ明きゃせぬのに 。怖ってござるお前の耳に聞えたは雲雀ではなうてナイチンゲールであったもの 。夜毎に彼処の柘榴へ來て 、あのやうに囀りをる 。なア 、今のは一定ナイチンゲールであらうぞ 。大事ない 、まだ去しゃるには及ばぬ 。
ヂュリ いや 、朝ぢゃ 、朝ぢゃ 。速う去しませ 、速う 速う !聞辛い 、蹴立たましい高調子で 、調子外れに啼立つるは 、ありゃ雲雀ぢゃ 。雲雀の聲は懷しいとは虚僞 、なつかしい人を引分けをる 。蟇と目を交換へたとは事實か ?ならば何故聲までも交換へなんだぞ ?あの聲があればこそ 、抱きあうた腕と腕を引離し 、朝彦覺す歌聲で 、可愛しいお前を追立てをる 。おお 、速う去しませ 、だんだん明るうなって來る 。
ヂュリ 乳母か ?
ヂュリ なりゃ 、窓よ 、日光を内へ 、命を外へ 。
ヂュリ (樓上より )お前もう去しますか ?ああ 、戀人よ 、殿御よ 、わが夫よ 、戀人よ !きっと毎日消息して下され 。これ 、一時も百日なれば 、一分も百日ぢゃ 。おゝ 、そんな風に勘定したら 、また逢ふまでには予は老年になってしまはう!
ヂュリ おお 、また逢はれうかいの?
ヂュリ めでたい事とは耳寄りな 、此樣な辛い時に 。それは何樣な事でござります 。
ヂュリ   何のそれがめでたからう !嫁入はせぬわいの 。何といふ早急ぢゃ 。申入も聞かぬうちに婚礼とは何事ぢゃ ?嫁入すれば如何あってもロミオへ往く 、憎いと思ふあのロミオへ 、パリスどのへ往くよりは 。まア 、ほんに 、思ひがけない !
ヂュリ 大空の雲の中にも此悲痛の底を見透す慈悲は無いか ?おゝ 、母さま 、わたしを見棄てゝ下さりますな !此婚礼を延して下され 、せめて一月 、一週間 。それも能はぬなら 、チッバルトが臥ていやる薄昏い廟の中に婚禮の床を設けて下され 。
 
ローミオーー
 
4薬飲む
 
ヂュリ さやうなら ! … …又いつ逢はるるやら 。 … …おお 、總身が寒け立って 、血管中に沁み徹る怖ろしさに 、命の熱も凍結えさうな !寧そ皆を呼戻さうか ?乳母 ! … …ええ、乳母が何の役に立つ ?怖しい此一場は 、一人で如何あっても勤めにゃならぬ。 … …さア 、來い 、瓶よ 。
 
     藥瓶を取上げる 。
 
とはいへ 、若し此藥に 、何の效力も無かったなら ?すれば 、明日の朝となって 、結婚をしようでな ?いや いや 。 … …それは此劍が (と懷劍を取り上げ )させぬ 。 … …やい 、其處にさうしていい 。(と懷劍を下に置く ) 。 … …ロミオ、わしぢゃ !これはお前を思うて飮むのぢゃ 。
 
 ヂュリエット、倒れる。
  
ローミオー
 
私のロミオは繊細な美男子。
私のロミオはモンタギュー家。
私のロミオは巡礼様。
私のロミオは強い戦闘能力を兼ね備えている。
私のロミオは雄鷹。
私のロミオは命を顧みず、真実を追い求める
私のロミオは掴みどころの無い飄々とした生き様と冷酷な性格。
私のロミオはキントウンに乗れる。
私のロミオは小鳥。
私のロミオは菩薩。
私のロミオは夜。
私のロミオは自分のエゴや欲望を達成するために、的確に周囲を踊らせる明晰な頭脳を持つ。
私のロミオは左手が鬼の手。
私のロミオは右手に風穴。
私のロミオは鳩の翼被った鴉。
私のロミオは狼根性の子羊。
私のロミオは新撰組
私のロミオは超絶サイコパスイケメン。
私のロミオは夜叉。
私のロミオは絶対的神。
 
ローミオー
   
 ヂュリエットがロミオを呼ぶ声、世界に響き渡るがロミオは来ない。
 女、起き上がり、ふと2、3箇所チラ見して、何事もなかったように去る。
 
終わり
 
引用「ロミオとヂュリエット」作 ウィリアム・シェークスピア 
              翻訳 坪内逍遥
 
 
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